そうこうしている間に、少しずつメンバーが揃ってきた。

俺達は体を温めるために軽くストレッチを行っている。


「あっ、伊吹」


「はい、何ですか??」


俺の前を通っていた伊吹に声をかけると、不思議そうに首を傾げて近付いてきた。


「紬が伊吹のこと応援してるって」


「えっ??」


ニッと笑ってそう言うと、ますます不思議そうな顔をした。

俺は昨日のことを伊吹に話した。


「紬ちゃん帰って来たんですね!応援もとても嬉しいです!」


俺の家の事情を知っている伊吹。
自分のことのように喜んでくれた。
その目には少し涙を溜めて。







「それでは1試合目を始めます」


紬の話を伊吹としていると、他校もどんどんやってきて、それぞれアップを取り終わり、早速試合を開始することとなった。

今回の試合は結構大切な試合。
だから必ず勝つ。

それに、紬に応援されたんだ。
負ける訳にはいかねー。


そう心に決めて、俺はいつも以上に集中して動いた。


「玲斗ホント調子いい~」


1試合を終えた時、ナルが口笛を吹きながらハイタッチをしてきた。


「レイもナルもカッコいい!」


「これなら全然優勝できるんじゃない??」


「だね!気ぃ抜かず頑張れ!」


頭上からはりょーすけとカナと瀬那の応援が聞こえた。


「おう!!めちゃくちゃ頑張るからな!!」


ピースをしてアピールすると、4人は声を上げて笑った。


「お疲れ様です、後3試合頑張ってください」


ドリンクとタオルを渡しながら微笑んだ伊吹。


「あたしも頑張ります」


そう付け足して言った。

それは、紬の応援に対してなのだろう。


「あぁ、頼む」


幼い妹の言葉をちゃんと受け止めてくれた伊吹に嬉しくなり、渡してくれた物を受け取りながら、俺も同じように笑った。







休憩に入り、俺は携帯が光っていることに気付いた。


「もしもし、太陽??どした」


それは家の番号で、声の主は弟の太陽。


「兄ちゃんっ」


焦ったような声。


「太陽??」


鼻をすするような音。


「お前……どうした??……」


まるで……。


「泣いてる……のか??……」


突然の泣き声に、動揺する俺。

今日は家に斎綺さんがいるはずだ。
だからわざわざ俺に電話をかけてくるなんて……。
そんなのまるで、あの日みたいに……。

まさかっ……。


「斎綺さんに何かあったのか!!?」


頭の中には大雨の景色が流れている。
耳には、聞こえるはずのない大雨の音が流れている。

あの日、柚紀さんを連れて行った大雨が……。


「違うっ」


太陽のその絞り出すような声に、俺は現実へ戻された。

斎綺さんに何かあったわけじゃない。
そのことに、俺は心底安心し、胸を撫で下ろした。


だけど……。

だけどじゃあ何だ??……。

斎綺さんに何もないなら、斎綺さんは太陽の傍にいるはず。

なのになぜ俺に電話をかけてきた??

どうしても俺に伝えなければいけないことがあるから??

だとするとそれは……。


「……紬に何かあったのか??」


安心したのも束の間。

今度はあってほしくない仮説が頭を過ぎる。


「……」


「太陽っ!!」


「……つむっ連れてっ……連れて行かれっちゃうっ!!」


連れて行かれる??

誰に??

そんなの聴かなくてもわかるだろ。

紬を連れて行くなんて、あの人達しかいない。


「じいちゃんとばあちゃん……」


掠れている声によって紡ぎ出された名前。

俺はサッと血の気が引く感覚になった。


「でも、紬……明日まで居られるんじゃ……」


「仕事っ終わったからってっ!!今すぐに迎えに来るってっ!!」


また離れる……。