「(今日はいろんな人に祝ってもらえて嬉しかったなぁ)」


そう、今日のことを思い出して口元が綻ぶのを感じながら道場の掃除をしていると、後ろから声をかけられた。


「小早川さんどうかしたの??」


振り向いたところに立っていたのは、俯いて下を見ている小早川さん。
気分でも悪いのかな??
心配して顔を覗き込んだ瞬間、小早川さんもそれに比例するように顔を上げた。


「荒川先輩、この後少しいいですか??」


「えっ??うん、大丈夫だけど……」


真剣な眼差しにぼくは戸惑いつつも笑顔で頷く。
それを見てホッと息をついた小早川さんは、焦ったように「それじゃあ後で」と言い、掃除に戻って行った。


「お待たせ、遅くなってごめんね」


そして掃除も終わり、着替えをして部活が終了した。

全員いなくなった道場はとても静かで、秋の虫達の鳴き声がよく響く。

ぼくは道場の外で待ってくれている小早川さんのもとへ急いだ。


「お疲れ様でした」


「お疲れ様」


部活終わりの挨拶を交わしたぼく達は、ベンチのある場所へと移動した。


「どうしたの??何か相談とか??」


小早川さんに呼び出された理由がわからないぼくは、あれこれと出してみるけるど、どれも違うらしくて、左右に首を振られるばかり。


「えー、じゃあ何だろ??」


他には……。

そう悩んでいると、小早川さんがゆっくりと微笑み口を開いた。


「今日、先輩お誕生日ですよね??」


「えっ??」


「お誕生日おめでとうございます」


まさかぼくの誕生日を小早川さんが知ってくれているなんて……。

赤いリボンが結ばれた箱を祝いの言葉と一緒に贈られ、驚きでしどろもどろになりながらそれを受け取った。


「あ、ありがとう」


「いいえ、受け取ってもらえてよかったです」


ニコニコと笑う小早川さんの笑顔に、ぼくも気が抜けたように笑顔を返した。







家に帰って、自室でプレゼントを開けてみる。
ナルからは鞄。
セナからは携帯のカバーとチョーカー。
レイからはセーター。
カナデからはニットキャップ。
そして小早川さんからはバングルとステンドグラスの栞。

ぼくのことを思って選んでくれたのであろうこの物全部が嬉しくて、心の中でもう1度みんなにお礼を言う。


「坊ちゃん、夕食の準備ができました」


ぼくを呼ぶ声に返事をして、そこへ向かうと、食卓にはぼくのために用意されたとわかるメニュー。

そして、それを見ていると、父さんや母さん、吉田さん、倉橋さん、八田さん、そしてその他の荒川組のみんなに誕生日を祝う言葉とプレゼントをもらった。


「ありがとう、本当にありがとう」


何度言ったかわからないお礼の言葉。
だけとわいくら言っても足りない。

そう思うくらいに、今日という日にぼくは感謝している。

秋晴れの空と同じように、ぼくの心もみんなのおかげで晴れやかだった。