いつもぼくは、家族の元気な声で目が覚める。

けれど今日は、秋特有の涼しい風がぼくの髪や頬を撫でた感触で朝を迎えた。


「坊ちゃんおはようございます」


居間へ行くと、吉田さん、倉橋さん、八田さんの3人が、いつものように声を合わせてぼくへ朝の挨拶をしてくれた。


「おはよう」


それに返事をし、いつものように学校へ行くまでの時間を過ごす。


「行ってきます」


今日も変わらない朝。

だけど、いつもと少しだけ違っているのは……。


「坊ちゃん、誕生日おめでとうございます」


「今日は秋晴れです」


「まさに坊ちゃんの誕生日に相応しい!」


玄関を出ようとするぼくへ、吉田さんが優しい笑顔を浮かべ、倉橋さんが薄く微笑み、八田さんが満面の笑みを向けた。


「ありがとう。行ってきます」


ぼくよりも嬉しそうに笑う3人に、少し照れるけれど、それでもやっぱり嬉しい。


10月10日。
秋晴れ。
涼しい風が穏やかに吹く今日は、ぼくの誕生日。







「荒川誕生日おめでとう!」


「涼桔君おめでとう!」


学校へ着き、下駄箱で靴を履き替えていると、クラスの違う子達に祝いの言葉をもらった。


「ありがとう」


「荒川君誕生日よね??おめでとう!」


「誕生日おめでとう涼桔君!」


まさか知ってくれているなんて思わなくて、ぼくは驚きつつも、笑ってお礼を言った。

そうしていると、次から次へと、いろんな人から誕生日の祝いの言葉やプレゼントをもらった。


「みんなありがとう」


こんなにもたくさんもらえるなんて思っていなくて、嬉しい反面、内心はタジタジ。

何とか人波が去ったところで、ぼくはやっと教室へと向かった。


「りょうおっはよ~」


教室へ入ると、まず最初に声をかけてきたのは、椅子に座ってヒラヒラと手を振るナル。


「おはよーリョウキチ」


そして次は、ナルの前髪をゴムで結ぶセナ。

「おーっすりょーすけ」


それから、ちゃんと結ぶ瀬那とは対照的に、明らかに髪を乱しにかかっているレイ。


「くくっ……おはようりょう」


最後に、レイによって乱れたナルの髪を、笑いを我慢しながら後ろから携帯で写メを撮るカナデ。

ぼくが教室へ入ってきたのは気付いたのに、ナルとセナはレイとカナデのしていることに全く気付いていない。


「おはよう」


ぼくは4人の光景に、ぼく自身、笑顔が零れているのがわかった。