俺は放課後に瀬那と2人でlibertyの部室へ向かった。
他の3人は俺が何を話そうとしているのかを察したのか、遅れると報告をしてきた。


「レイ、何か話でもあるの??」


対面に置かれたソファーに座ると、瀬那は笑顔でそう言った。


「何となく、俺が何を言いたいかはわかってんじゃねーのか??……」


「……やっぱり、昨日のこと」


俺が頷くと、笑顔は苦笑いへと変わった。


「あいつ達、小学生の時サッカーで出会って、ライバルだって言ってたやつ達だよな??」


「うん……何て、肯定することも、今は怒られそうだけど……」


去り際に瀬那へ投げられた言葉。
瀬那は今それを思い出しているのだろう。


「瀬那、お前は今あの2人のことをどう思っているんだ??」


「どうって言われても……」


俺からの質問に、答えに困ったのか、頭をかきだした瀬那。


「何でもいい、素直な気持ちが聞きたい」


俺は瀬那から視線を逸らさずに、瀬那の言葉を待った。


「……ボクはあの時までは確かに維澄とショウ君とライバルだった……だけど……サッカーを捨てた今のボクは、ああ言われても仕方がない」


「でもそれは、あの時お前っ」


「理由はどうであっても、ボクは逃げた……その間に2人がどれほどの努力をしたのかなんて、聴かなくてもわかる……」


瀬那がサッカーから遠ざかった理由を知らないあいつ達。
瀬那はこう言っているけど、俺はどうしても悔しくて仕方ない。

だけど……。


「(俺じゃ……俺達じゃ……瀬那を救うことはできないっ……救いたいのに……それができないっ……)」


あいつ達にわかってもらえないことが悔しい。
だけど俺達はお互いを救うことはできない……。

俺は、黙って拳を握りしめることしかできない自分が腹立たしくて仕方がなかった。







「ハル君、ちょっといい??」


俺は放課後、部活が休みのため家へ帰ろうとしているハル君を呼び止めた。


「長坂からわざわざ話しかけてくるなんて珍しいな」


「まあね、ちょっと聞きたいことがあって」


少し不審そうに首を傾げるハル君。
俺は遠回しなんてことせずに昨日の出来事を全て話し、直球で聞いた。

昨日瀬那に話しかけてきたあの2人のことを。


「榛名維澄と間宮翔大。俺と小学校が一緒で、後藤のことをライバルと言っていたな。2人は幼稚園児の時からの幼なじみで、今は甲陽でサッカー部に所属しているはずだ」


「そっか、ありがとう」


聞くことは聞いた。
そう思って帰ろうとすると、後ろからハル君に呼び止められた。


「長坂、あいつ達に会いに行くのか??後藤が言い返さなかった分を言い返しに行くのか??」


「何??止めるの??」


振り返って尋ねると、ハル君は首を横に振った。


「別に止めはしない。ただ、長坂が相手なんてあいつ達が可哀想だと思っただけだ」


ニヤニヤ笑ってきたハル君に、どういう意味??と目線で訴える。


「後藤がサッカーを辞めた理由は俺も榛名も間宮も知らない。けど、あいつ達は悪いやつではない。ただ、ライバルがいなくなったことにショックを受けているだけなはずだ」


「……安心しなよ、俺はわざわざ甲陽に行くなんてめんどくさいことはしない。どうせ別のやつ達が動いてるだろうしね」


「それはよかった。あいつ達まだ生きていられるな」


冗談ぽくそう言ったハル君。
本当ハル君って失礼だよね。


「長坂、俺も榛名や間宮の気持ち……少しわかる。ライバルには、帰ってきてほしいと思うから」


「………」


俺へ向けられる真剣なハル君の目。

だけど俺は、それから逃れるようにその場から去った。