俺の家は1階が定食屋で2階が家。
だからいつも帰ってきたら店の横にある階段を上って家に入る。


「ただいま~………これは………」


いつものように帰って来ると、玄関に置かれた靴の数に俺はある人を思い浮かべた。


「おかえり成海」


「やっぱり……」


俺を出迎えたのは元ヤンで今はOLの22歳の姉、右京(うきょう)。
今は1人暮らしをしていて、たまに突然家に帰って来る姉さん。
今日もまた突然帰って来たみたい。


「姉さん今日はどうしたの??」


「………」


ああそう、無視ですか。
いいですよいいですよ。
別に拗ねてません。


「あっ、そういえばさっきりょうから宗佑さん帰って来てるって連絡が……」


そう言い終える前に、ガタンガタンッ!!と大きな音が鳴った。


「ちょっ、姉さん!?大丈夫!?」


その音の原因は姉さん。
ん??もしかして……。


「もしかして姉さんそのために帰ってきたの~??」


「っ!!」


姉さんと、りょうの兄である宗佑さんは俺とりょうが出会った時に同じように出会い、所謂幼なじみ。
霧南出身で卒業するまでずっと一緒だった2人は、卒業を機に宗佑さんからの婚約申し出によって、今は婚約者という立場でいる。

まあつまりあれだね、姉さんは荒川組の時期姐さんになるってことだね。

何か話がそれたけど、とにかく、姉さんが動揺している理由は、鎌倉で仕事をしている宗佑さんが帰ってきたからってこと。


「姉さん乙女~!好きな男が帰って来たから会いに行くために帰って来たんだね~!」


ニヤニヤしながら倒れている姉さんを肘で小突くと、姉さんはムクリと起き上がり、俺の肘を掴んだ。
うん、嫌な予感。


「それ以上言ったら殺すわよ??」


「すみませんっしたあぁぁぁ!!」


元ヤンの風格で青筋立てながら言われ、俺はスライディング土下座をする。


「騒がしいわよ、静かにしなさい」


「まあまあ、元気があっていいじゃないか」


そこへ現れたのは、42歳の定食屋の女将である俺達の厳しい母、郁恵(いくえ)。

そして、42歳の定食屋の旦那である俺達の優しい父、賢治(けんじ)。


「デカいのがそんなとこにいたら邪魔よ」


「成海、早く退きなさい」


「何で母さんと姉さんは手を組んで俺をイジメ倒すんだろ……」


言葉の暴力が俺の心に突き刺さる。


「成海、落ち込まない落ち込まない」


「父さん……」


「今に始まったことじゃないだろ??」


あー、まさかの追い討ち。


「俺の家って何でこんなに女が強いのかな~??俺は絶対可愛い子捕まえるぞ」


「成海、わかってないな」


意気込む俺に父さんがクスクス笑い出した。


「母さーん!今日も可愛いねー!」


ガタンガタンッ!!
父さんが叫んだ瞬間大きな物音。
そしてその後に聞こえた姉さんの心配する声。
てことは、母さん??


「ねっ??強い女こそ乙女で可愛い」


そう言って行ってしまった父さん。
確かに父さんの言うとおり姉さんも宗佑さんの話をしたら乙女になる。


「強い女こそ乙女で可愛い、か……名言だ~」


つまりあれでしょ??
父さんの言いたいことは、母さんも姉さんも可愛い可愛い女の子ってこと。

まあ、松岡家はこういうので成り立っているんだな~。