「ただいまー」


いつものように家に帰ったボクを待っていたのは……。


「おかえり」


「おかえり」


「えっ……兄さん??姉さん??」


ボクを出迎えたのは甲陽学園出身の現在弁護士をしている23歳の兄、広隆(ひろたか)。

そして、プリンストン大学を飛び級した現在外資系の仕事をしている21歳の姉、統子(もとこ)。

すでに家を出ている2人がここにいるなんて……。


「何で2人ともいるの??」


「ワタシはお前に会いにきた」


「あ、ありがとう」


自分で言うのもアレだけど、姉さんは昔からボクが好きで、よく母さんと争っていた。
最近は家を出ているし、スウェーデン人の彼氏もいるしで母さんと争うことは少ない。


「俺は本当は今すぐ夕歌と夕美のところに帰りたい」


兄さんの言う夕歌(ゆうか)と夕美(ゆうみ)とは、兄さんの奥さんと娘のこと。
兄さんは奥さんと娘が可愛ければ万事解決スタンスな人。
ってか、それなら何で来たの??


「ヒロタカ何で来たの」


「お兄ちゃんと呼べないのか統子」


ボクと同じことを思っている姉さんと、真顔でよくわからないことを言う兄さん。


「わざわざ帰ってきたんだよ、お前のために」


「ボクのため??」


兄さんの言葉の意味がわからなくて首を傾げるボク。


「いつまで玄関で話し込むの、早く入ってきなさい」


奥の廊下から歩いてきた着物を着た人。
それはこの旅館の女将であり後藤家の女王である45歳の母、喜代(きよ)。


「出たな喜代、瀬那は渡さない。そして女王の座を奪ってやる」


「退きなさい統子、瀬那を返しなさい」


「ほら瀬那、早く中入るぞー」


さっきのやっぱり無し。
未だに争いは続いてた。
しかもそれを華麗スルーする兄さんのスキルの高さにボクは苦笑いをするしかない。


「みんなで楽しそうだね」


「父さん、これはボケていい範囲外だから」


中に入ると着物を着て待っていたのは、この旅館の支配人兼料理長である46歳の父、新(あらた)。
多分ボクのボケのスキルは父さん譲り。


「キヨさんも、モトちゃんも、仲良く夕食食べようね」


「父さんが言うなら仕方ない」


「すぐ用意しますねアラタさん」


父さんの言葉に休戦した姉さんと母さん。
何だかんだ一番最強なのは父さんだと思って疑わない。


「さてさて、全員揃ったところで……。遅くなったけど、誕生日おめでとう瀬那」


「えっ??」


全員が食卓に着いた時、父さんがボクに笑いかけてそう言った。
それに続いて母さんも兄さんも姉さんも同じ言葉を言った。


「まさかそのために帰ってきたの!?」


別にわざわざ誕生日だからって帰って来なくてもよかったのに。

そう言おうと思ったけど、父さんと母さんと兄さんと姉さんを見て言うのを止めた。
だって、理由がどんなのでも、やっぱり家族が揃って家にいるというのはいいもんだから。