「ただいまー」


「お帰り兄ちゃん!!」


俺が家へ帰ってくると、いつものように7歳の弟の太陽(たいよう)が出迎えてくれた。

だけど、いつもと何だか違う。


「太陽、斎綺さん帰ってんのか??」


それは玄関に並べられた俺のよりも大きい靴。


「帰ってる!!」


この時間に斎綺さんが帰って来ているなんて珍しい。


「斎綺さん」


「ああ、おかえり玲斗」


台所に足早に向かうと、そこには野菜を切っていたのは44歳の俺の父親の斎綺(いつき)さん。


「ごめん、今日早く帰る日なんて知らなくて……」


「違う違う。急遽早く帰れることになっただけ」


夕飯を1人で作らしていることに罪悪感が生まれ、もっと早く帰っておけば……。
そう思った俺に、斎綺さんは笑顔で否定した。


「斎綺さん俺も手伝うわ」


「ありがとう。じゃあ魚焼いてくれる??」


「了解」


台所にこうして2人で立つことなんてなかなかない。
緊張というより、少しむずがゆい感じの違和感を感じながら俺は斎綺さんの横で魚を焼き始めた。


「兄ちゃん!!今日魚!?」


匂いを嗅ぎ付けた犬のように太陽が小走りで駆けてきた。


「おう。太陽、まだ時間かかるから先に風呂入ってこい」


「うん!!」


今日も野球をしてきたはずなのに、その元気はどこから来るんだろうな。

太陽は元気に風呂へ向かった。


「玲斗いつの間にかちゃんと兄ちゃんしてるな」


「えっ??」


斎綺さんは俺より背が高い。
そのため、斎綺さんの言葉は頭上から聞こえてきた。


「昔は太陽をどう扱っていいのかおっかなびっくり状態だったのに」


太陽が生まれた時のことを言っているんだろう。
確かにあの時俺は、初めての弟をどう扱ったらいいのかわからなかった。


「だけど、少しずつ兄ちゃんになっていって、つむちゃんが生まれた時にはもうすでに兄ちゃんだった」


2歳の妹の紬。
昔は赤ちゃん相手にオロオロしていた俺だけど、太陽のおかげで紬の扱いがちゃんとわかっていた。


「玲斗いい兄ちゃんになったな」


手を洗ったばかりの冷たい手が俺の頭を撫でた。
びっくりして振り向くと、すでに食卓へ夕飯を運びに行っていた。


「いつもは友達感覚なのに、こういう時父親っぽいんだよなー」


頭をガシガシかいて俺も焼き魚を食卓へ運ぶ。


「ほら、太陽座れよー!」


「はーい!!」


「玲斗、柚ちゃんのご飯持って行って」


「はーい」


見た目チャラいけど俺達家族を超愛してくれる父親の斎綺さん。

今はもういないけどいつだって優しかった母親の柚紀さん。

元気いっぱいでいつも俺達を明るくしてくれる弟の太陽。

今は一緒に住んでいないけどスゲー可愛い妹の紬。


これが俺の大切な家族。