「ただいま」


いつものように家に帰ったぼく。


「おかえりなさい坊ちゃん」


組の人とは思えないほどの優しい笑顔と性格の吉田さん(26歳)。


「お疲れ様です坊ちゃん」


無表情ながらも何でも軽くこなす出来る人で、年齢より若く見える倉橋さん(37歳)。


「坊ちゃん!ご苦労様です!」


失敗は多いけど明るく元気で真っ直ぐ八田さん(28歳)。


こうして迎えられるのがいつもの荒川家。
だけど今日は少し違った。


「ただいまー……っと、疲れたー」


今さっきぼくが閉めたばかりの玄関の扉を開ける音と共に聞こえた声は……。


「兄さん!?」


「ただいま涼桔」


それは22歳のぼくの兄であり、荒川組の長男、つまり若頭である宗佑(そうすけ)だった。


「若っ!?おかえりなさいませ!!」


「あはは、驚いたか??」


そりゃあ驚きもするよ。
だって兄さんは今、神奈川の鎌倉で馴染みの組との仕事をしているはずなんだから。


「あら、涼桔が帰ってきたかと思ったら宗佑も帰ってきたのね」


今度は廊下から驚いた声が聞こえた。
その声の主はぼく達の母であり書道家の44歳の瑚涼(こすず)。


「ただいま母さん。兄さん、今鎌倉にいるはずだよね??どうしたの??」


母さんに帰ってきた挨拶をし、兄さんに気になっていたことを尋ねる。


「ああ、さすがに3ヶ月も家空けてたら、あっちの組の人が家帰ってやれってしつこくてさ」


笑い飛ばしながら兄さんはぼくの肩をポンポン叩いて中へ入って行く。


「やっぱり着流しが落ち着くなー」


「あっちでは着てないの??」


「あっちでは観光客っぽくて逆に目立つからな」


着流しに着替えた兄さんと話していると、突然現れて兄さんの代わりに答えたのは、44歳のぼく達の父。
荒川組の頭である宗一郎(そういちろう)。


「ただいま父さん」


「おかえり。宗佑、涼桔、太郎が待ってるぞ」


「ワンワン!」


父さんがそう言った瞬間に縁側から鳴き出したのは、柴犬の太郎。


「太郎久しぶりだな、会いたかったぞ」


「太郎も兄さんに会いたかったよね」


縁側に前足を乗せてぼく達に尻尾を振る姿が可愛い。


「涼桔、俺がいない間ありがとうな。またすぐに帰るから、次帰ってくる時まで頼むな」


今はまだ頭になっていない兄さんは、他の組と仕事をしたりしてほとんど家を空けている。
だからこうして兄弟が揃うことは珍しい。


「うん。頑張ってね兄さん」


遠くで夕食の時間だと伝える声が聞こえる。
ぼくは翻した兄さんの着流しの後を追った。


ぼくの家族は義理と人情を重んじ、誰にでも優しい人ばかり。
だからこそ、ぼくはこの家が極道の家柄だからといって嫌いにはなれない。
逆に、ぼくもこの家族であることを誇りに思う。


父さん、母さん、兄さん、太郎、吉田さん、倉橋さん、八田さん。
それから組の人みんな。
全員ぼくの大切な家族。