「荒川先輩」


「お疲れ様、はいこれ」


部活が完全に終了し、ぼくは校門で小早川さんを待っていた。
そこへ、小走りでやってきた小早川さんに、温かいココアを渡し、ぼく達は近くの公園へ向かった。

そこは遊具は少なく、子供が遊ぶ場所というより、町の人達が集う広場のような場所。
今は時間が時間なだけにいるのはほんのわずかの人だけ。


「急にごめんね、びっくりしたよね??」


「いえ大丈夫です。……多分私も聞きたかったことですから」


やっぱりぼくが何を伝えたいのか気付いていたんだね。


「そうだね……」


離れて行ってしまうのかどうなのかわからない。
だから怖い。
だけど、もう逃げることはしない。


そう思って、ぼくはずっと伝えていなかったことを1つ1つ落とすことなく、ちゃんと伝わるようにゆっくりと話し出した。


家が極道の家柄であること。
それ故にぼくの周りに人が寄り付かなかったこと。


小早川さんは瞬きも忘れているくらい、真剣にぼくの話に耳を傾け続けてくれた。


「だから、怖くて言えなかった……」


全てを話し終え、最後にごめんと謝る。
それは、小早川さんと距離を取っていたことに対する謝罪。


「どうして……私に言おうと思ってくれたんですか??……」


「離れてほしくないと思ったから」


小早川さんからの質問に、ぼくは素直にそう伝える。


「肝試しの時……岡本先輩に、荒川先輩は怖がられることを怖がっていると言われました」


「レイに??」


「私は……こんなに優しい笑顔の人が怖がられるなんてって……あの時はそう思いました……」


ああ、マズいかもしれない。
この言葉の感じ。
この後に続く言葉は……。


「だけど……」


ねえ、お願いだから……。


「だけど私……」


ぼくから離れて行かないでっ……。


「今でもやっぱりわかりません」


「えっ??……」


ぼくの思いとは裏腹に、小早川さんから告げられたのは意外な言葉。


「だって、荒川先輩は荒川先輩なんですよ??家柄のことも何もかもひっくるめて荒川先輩なんです。だから、私は怖いだなんて思えません」


「小早川さん……」


「だって、初めて図書室で出会ってからずっと、先輩のことを見てきたのに、今更何を怖がれって言うんですか??……。私にはいつだって、どんな先輩でも先輩に変わりありません」


「っ!!!」


そこには、綺麗笑う小早川さんの姿があった。


「先輩、話してくれてありがとうございます。嬉しかったです」


「お礼を言うのは……ぼくの方だよ……」


ぼく達libertyは、自分だけ救われて、他のみんなが救われないことが嫌だと思うから、救いたくても、気を遣われてしまうから、お互いのことを完全に救うことはできない。

だからみんなは、ぼくが気を遣わないように、小早川さんにぼくのことを託してくれたんだよね??

みんなのおかげで、ぼくは救われたよ。
ありがとう。
ありがとう、大切なlibertyの仲間達。

そして、ぼくを救ってくれてありがとう、小早川さん。


あの時言った“ありがとう”の何倍もの“ありがとう”を、ぼくは心の中で何度も言い続けた。