ぼくは離れていかれることが怖くて、自分から知らないうちに距離を取っていた。

いや、わざと……だったんだよね。

家のことを言えなかったのも、自分から傷付く方に向かって行くことが怖かったから。

だけど、libertyのみんなはわかっていた。
ぼくのそんな臆病なところを。

だから背中を押してくれたんだよね??


「みんなありがとう」


あの時も伝えた言葉。

そこにはいつもと同じ笑顔がある。

何だかすごく安心する。


「明日の放課後、ここには来ない」


言葉の続きを黙って待ってくれている。


「明日の放課後、小早川さんにぼくの過去のことを話すよ」


そう告げ、ぼくは先に家へ帰ることにし、部室を後にした。


「りょーすけ本人は気付いてねーけど」


「リョウキチが本気で離れてほしくないって思う人は」


「りょうの側を決して離れていかない」


「だから心配しなくても大丈夫だよ」


ぼくの閉めた扉を見つめながら、部室でそんな会話がされていることなんて知らずに。




「小早川さん、部活終わった後……ちょっといいかな??」


早く伝えたくて、翌日の放課後、部活が終わる少し前に小早川さんを呼んだ。


「はい……」


ぼくの誘いに頷いてくれたものの、戸惑っている風で、返事がすごくぎこちない。


「あははっ、大丈夫だよ。小早川さんにどうしても伝えたいことがあってね」


「……」


ぼくが何を伝えたいのかを察したのか、戸惑っていたさっきとは違って、今度は真っ直ぐにぼくの目を見て頷いた。


「それじゃあまた後で」


片付けを行うためにぼく達はそれぞれの場所へ戻った。




「お疲れ様でした!」


「お疲れー」


そして片付けも終わり、みんなはどんどんと武道場から帰って行く。


「荒川お前今日もliberty??」


「いや、今日は行かないよ」


「そっか、なら俺達と一緒に帰らねー??」


「ごめんね、ちょっと用事があって」


部員からの誘いをやんわり断ると、お疲れと言ってくれて帰って行った。


「大切な部員だと思うのに、別に離れていかれることが怖いなんて思わない……」


確実に小早川さんよりも長く一緒にいる部員達。
なのにどうしてかな??
小早川さんだと怖いと思うことが、部員のみんなだと怖いとは思わない。


「それだけ大切だと思っているんだよね……」


自分の心にストンとはまるこの言葉。
わかっていたのに気付かないふりをしていた言葉。


「どうか離れて行きませんように」


誰が叶えてくれるわけでもない願いを、小さな声で呟く。