何かに驚いたように言葉を発した後、はっとしたように自分も悪いと申し訳なさそうに謝ってくれた。


「じゃあっ、ボクこれで!」


「あっ…」


なぜか逃げるように走って行ってしまった。


「ワタシの方が恐がられてる??……」


なんて考えながら先輩の背中を見ていると、先輩は自分の右足と左足が絡まって前のめりに転びそうになり「イテッ!」なんて言ってるから、またワタシは吹き出してしまった。


「恐くなんてないのになぁ」


未だにワタシは「ふふっ」っと笑いながら先輩に頼まれた水を入れに水道の蛇口を捻った。





「お疲れ様でーす」


「お疲れ様でしたー」


「はい、お疲れ様」


そろそろ部活が終わる時間になり、美術部の部員は少しずつ帰って行く。
顧問の先生、おじいちゃん先生こと美濃泰(みのう やすし)先生は、挨拶をし帰って行く部員へ笑顔を向けて挨拶をした。


「砺波、君はまだ帰らないのかい??」


美濃先生はワタシの所へゆっくり歩いてきてそう言った。


「すみません、ここだけ描いたら帰ります」


ニコッと優しい笑顔をしてくれた先生は部長の臥龍時雨(がりゅう しぐれ)先輩から部室の鍵を受け取り、臥龍先輩が帰るのを笑顔で見送った。

そして美術室にはワタシと先生だけになった。
けれど、それも一瞬で、突然美術室のドアが開いた。
誰か訪問者が来たらしく、先生は「いらっしゃい」と落ち着いた雰囲気で来客者へ言った。
ワタシは誰かなんて興味なかったので、ドアの方は見なかったが、来客者の声を聞いた瞬間、バッと体ごとドアの方へ向いた。

そう、そこにいたのは。


「後藤、今日は昨日の続きからでいいかな??」


「よろしくお願いします」


キラキラ。

先生へ軽くお辞儀をし、揺れてキラキラ光る金色。


「あっ」


キラキラの先輩はワタシに気付き、また驚いた顔をした。


「知り合いかい??」と聞いた先生に、先輩は「えぇ、まぁ」と言って苦笑いをした。




「おや、こんな時間か。ワシは校内の施錠をしてくるから、悪いが後藤待っててくれるかい??」


そう言って先生は施錠へ向かうため、美術室から出て行った。


チクタクチクタク。
時計の音がよく聞こえる。
近くに座っていた先輩は、少し気まずそうに時計を眺めた。


「先輩」


ワタシの呼びかけに肩が大きく上がり驚いた先輩。
だけど、ワタシはそんなことお構いなしのように、そのまま話しかけた。