「荒川先輩、お疲れ様です」


「ありがとう小早川さん」


秋がだんだんと近付いてきた。
ぼく達はいつものように部活に勤しんでいる。


「マネージャーの仕事ずいぶん慣れたね」


「そう思います??」


「思うよ。もともと小早川さんは向いていたのかもね」


ぼくの言葉に嬉しそうに笑う小早川さん。
ぼくも釣られて笑顔になれる。


「………」


「??……どうかしたの??」


しかし、突然黙って眉を下げる小早川さん。
夏休みが終わった新学期頃からこうした表情をすることが多い。
ぼくは不思議に思ってどうかしたのか尋ねる。


「!!……何でもないですっ」


けれどいつだって同じ返答。
何を悩んでいるのかわからないし、教えてくれない。

気にはなるけれど深くは追求せず、ぼくもそこで話を変える。

それがここ数ヶ月のぼく達。




「りょうってホント詩音ちゃんと距離取ってるよね~」


「えっ??」


いつものようにlibertyの部室へ行くと、そこにはナルしかいなくて、どうやら他の3人は用事で少し抜けているらしい。

いや、そんなことより、ぼくは突然ナルから言われた言葉の意味がわからなくて首を傾げる。


「だって、家のことまだ言ってないんでしょ~??」


ナルの言う、ぼくの家のこととは、ぼくの家が荒川組という極道の家元だということ。


「言ってないけど……それがどうかしたの??」


「いや、気付いてないならいいや」


「えー、教えてよ」


ナルのこんな風にフラフラと話を逸らすのが上手いのは昔から。
だから本当に気になることはちゃんと捕まえないとそのままかわされ、流されてしまう。


「りょうは俺の話捕まえるの上手いよね~」


そしてぼくはそれをちゃんとわかっているから捕まえる。

だって本当に気になるから。


「ナル、ぼくが小早川さんと距離取ってるってどういうこと??」


確かに最近前みたいに話すことが少なくなった。
だけどそれは、ぼくが気付かないうちにぼく自身が距離を取ってるからってこと??


「りょう、最近詩音ちゃんと前より距離できたって思わない??」


「うん……」


「それはさ、りょうの悩みに詩音ちゃんが気付き始めたからだよ」


小早川さんがぼくの過去のことに??……。


「何に悩んでいるのかはまだわかってはいないだろうけど。それでも確実に、りょうがそれを隠していることに気付き始めている」


「でも……だからってそれがぼくが小早川さんと距離を取っていることと関係あるの??」


ぼくの問いに、ナルは真剣に話をしようとしてくれたのか、向かいのソファーに移動した。