あの後3年の借り物競争を含むいくつかの競技が終了していった。


「プログラム17番。男子1000m走です」


いよいよ俺達が出場する最後の競技。


「ほら出番だよ、いってらっしゃい」


笑って俺達を見送るカナ。
俺達はそんなカナに元気よく返事する。


「カナ」


「何??玲斗」


カナの名前を呼ぶと不思議そうに首を傾げてきた。


「俺達は勝つ」


「絶対1位取るよ」


「カナデ、応援しててね」


「ちゃんと見ててね」


俺と瀬那とりょーすけとナル。
俺達4人がそう言いながら拳を前へ突き出した。


「うん……頑張れ」


一瞬驚いたように目を開いたが、すぐに笑って俺達と同じように拳を前へ突き出したカナ。

俺達はハチマキを結びなおしてグラウンドへ向かった。


「そういや聞いたで??カナ君が出るはずやったのに俺になったって。みんなそれでよかったん??」


先に集合していた幹哉が思い出したかのようにそう尋ねてきた。
カナの事情を知らない幹哉に俺達からそれを話すのはお門違いだから、俺達は苦笑いを返すしかない。


「せっかくlibertyの友情が見れると思ったのになー、ちょっと残念や」


ホイッスルが聞こえ、俺達は準備をし出した。

そして、一走目であるりょーすけはピストルが鳴った瞬間誰より早く飛び出した。
俺達はりょーすけの名前を叫び、声援を送る。


「ナル!!」


「任せて~!!」


グラウンド1周である200mを走り終えたりょーすけから今度はナルへバトンが渡った。

りょーすけのおかげで結構他のクラスとの差ができた。
けれどまだ6組と1組と5組がすぐ後ろを追いかけて来ている。


「セツ子!!」


「OK!!」


次はナルから瀬那へバトンが渡った。

ナルの頑張りがあって1組との差が開いた。
瀬那、どうか他の2クラスも振り切ってくれ。


「レイ!!」


「おう!!」


そしていよいよ俺の番。
瀬那から受け取ったバトンを握りしめて走る。
瀬那のおかげで開いた5組との差を縮められないように走る。


「(カナ……俺はお前と走りたかった……libertyで走りたかった……お前の本気の走りをもう1度見たかった……)」


そう思いながら走ったのは俺だけじゃねーよな??……。

幹哉が立っている横で俺を応援する3つの声。
それ達に俺は心の中で尋ねラストスパートをかける。


「幹哉!!」


「いくでっ!!」


アンカーの幹哉へバトンを渡す。
幹哉はそれを受け取るとすぐさま走る。
少しは6組との差も開けられた。
そのことに俺は安心した。

俺達は全力で走った。

けれど結果は2位。
負けたんだ。
ハル君のいる6組に。


「俺は本気で勝ったなんて思っていない、来年こそは……そう長坂に伝えてくれ」


全く嬉しそうな顔をせずに、それだけ言うとハル君はテントへ戻って行った。
俺達もカナの待つテントへ向かった。


「お疲れ。やっぱりハル君速いよね、終わった後吐きそうになってたけどねハル君」


いつもと同じカナの笑み。
俺達は1位を取ると言った約束を守れなかった。

だけど、ハル君と一緒だ。
俺達だって本気で負けたなんて思っていない、来年こそは……。

来年こそは、一緒に走る。


「最後の種目はフォークダンスです」


そのアナウンスを聞いた後、俺達はlibertyの部室へ向かった。


「結果俺達のクラスが1位だとよ」


フォークダンスをサボった俺達は今行われている閉会式を部室から聞いている。
聞こえた結果発表を伝えると、4人は嬉しそうに笑った。


「楽しかったね、霧南祭」


「まあ女装もいい思い出にはなったかな」


「え~??最高だったでしょ~」


「俺もう疲れた」


何だかんだ言いながらも、俺達は多分誰より楽しんだ。


「そろそろHRしに教室行くか」


時計を見るとそろそろクラスのやつが帰ってくる時間。
そう伝えると、4人は軽く伸びをして立ち上がった。


「来年もこうだったら……いや、もっと楽しければいいな」


3日間を振り返ると楽しいことばかりだった。
だから、来年もまたコイツ達と一緒に、もっと楽しければいいと思う。

小さい俺の夢がどうか来年叶いますように。


そして俺達の2回目の霧南祭は幕を閉じた。