「蛍ちゃ~ん俺も手伝おうか??」


「大人しく休憩しておいてください」


冷たくあしらいながら、やっぱり怒ってしまったことへの罪悪感は消えないでいた。
謝ろうか。そう思うけれど、名前を呼ばれる度、罪悪感よりも苛立ちの方が勝ってしまう。


「えーっ、蛍ちゃ~ん」


「先輩、下の名前で呼ばないでくださいって言いましたよね??」


「でも俺は了承した覚えはないよ??」


ニコッという効果音が付きそうなほどの笑顔でそう言ってきた。


「そもそも、何でそんなに嫌なの??可愛い名前じゃん」


しつこく聞いてくる先輩に怒りまかせに理由を話すことにした。


「アタシは、身長が173cmもあるんです……。女子の平均身長なんて中学の時に既に超えました……。身長が高い女の子なんて可愛くないです。それに加えて、先輩も知っているでしょうけど、アタシは性格だって可愛くない……。素直やないし、人に冷たくしてしまう……。可愛くないアタシには蛍なんていう名前は似合わへんっ!せやから嫌いなんですよ!自分に似合わへん可愛い名前がっ!」


これで満足ですか!?と最後に付け足し、少し目尻が熱くなっているのを感じながら俯いた。


「蛍ちゃん可愛いじゃん」


「はぁ!?こんな時まで冗談なんかっ」


「嘘じゃないよ。そうやって、自分のこといろいろ気にしているのだって可愛いし、素直になれない性格だってさ、世間一般でいうツンデレじゃん??」


真面目な顔で微笑んできた松岡先輩に言葉が出てこないアタシ。


「あっ!」


手をポンッと叩き、何かを思いついたという風にアタシへ目を向けてきた。


「俺の下の名前と蛍ちゃんの名前でウミボタルじゃん!」


「えっ??」


「だから、俺の成海の海っていう字と、蛍ちゃんを足したら海蛍じゃん??って」


海蛍……。
ウミボタル……。


「蛍ちゃんが俺に落ちればウミボタルになれるよ!だから、俺を愛して」


いつものようにキメポーズをしながら冗談を言ってきた松岡先輩。


「バカなんじゃないですか。そのセリフ寒すぎです」


作り終えたドリンクを運びサッサと出て行くアタシ。そんなアタシへまた名前を呼び追いかけてくる先輩。
だけど、アタシは呼ばれた名前に苛立ちはなかった。




海に蛍が落ちれば黄色の光は青い光へと変わる。
そしてウミボタルになる。

アタシは海へ落ちてあげる予定はない。
海だって別に蛍に本気で落ちてきてもらいたいわけではないだろう。
だけど、海の近くで飛ぶ蛍は、きっとそこら辺にいる蛍達よりも自分の光を誇らしく思えるのだと思う。

























「ナル、マネージャーの子に絡みすぎだって他のバスケ部が言ってたよ」


教室で奏ちゃんは携帯を弄りながらそう言った。


「ぼくもそれ聞いたよ。副キャプテンがマネージャーにセクハラしてるってね」


笑いながら言ったりょう。


「レイは自分への被害減って喜んでるけどな」


「そのまま俺へ絡まなくなって俺の視界から外れたら最高なんだ」


セツ子の言葉に反応した玲斗は心を抉るような暴言を吐いた。


「酷くない!?」


俺がラブアタックする人はみんな俺に冷たい。
そんなことを最近思い始めた俺。
だけど、蛍ちゃんのたまに見せる笑顔とか可愛いなぁって思うと、口に出さずにはいられない。
俺は素直な性格なだけなんだ。
だから、変態扱い止めろ!