「ナル……ぼく達を騙したの??……」


眉を下げて問うリョウキチ。


「俺達にこんなことさせて楽しい??……」


鋭く睨むカナデ。


「俺達はっ……お前のことをっ……信じてたのにっ!!」


レイの悲しい叫び。


「やだな~……俺はいつだって楽しい方の味方だよ??……」


愉しそうに弧を描くナルさんの口。


あぁ……どうしてボク達はこうなってしまったんだろう……。


どうしてボク達の目の前には……。


「女装の衣装があるんだろう」


シリアスから全くと言って良いほどかけ離れた服達。
これをボク達に着せるなんて有り得ない。
そもそもナルさんがボク達にクラスの出し物が“女装”喫茶であることを黙っていたのが原因だ。


「クソッ!!俺達をはめやがったな!!」


「玲斗、その木は飾りであって木登りをするものじゃありませんよ~、降りてきなさい」


ついさっき知ったボク達は女装に大反対。
レイなんか木の上に登って降りてこない。
ナルさんは悠長に笑っているけど、女装賛成してるのナルさんだけだから。


「ナル、せめて言ってくれたらよかったのに」


「言ったら絶対反対するか、今日サボるでしょ~??」


苦笑いをしながらそう言ったリョウキチにナルさんは的中したことを言う。
否定出来なくてリョウキチは笑うしかないみたい。


「女子が怖いよ、すっごいやる気だもん」


ヒソヒソとボクの横でカナデがそう言った。
確かに、女子は気合い十分で衣装とメイク道具を持ってこっちを向いている。


「しょうがないな~……うっ!!痛いっ!!」


呆れたように笑ったナルみんは突然苦しそうにお腹を抱えて膝を付いた。


「ナル!!大丈夫!?」


それに駆け寄って行ったのはリョウキチ。
さすが優しいリョウキチだ。
でも……何だかおかしくないか??


「な~んてねっ!はいっりょう確保~、1名様ご案内~」


「ちょっと!!ナル酷いっ!!」


仮病を使ってリョウキチの優しさにつけ込んだナルさん。
最初の犠牲はリョウキチ。


「しょーがねー、こんなことしてても意味ねーな……カナ!!」


「わかってるよ」


木の上から何かをカナデに指示するレイ。
カナデはそれに頷きボクの背中を押した。


ん??ボクの背中を押した??


「って何ボクを生け贄にしてんのー!!?」


「お前のことは忘れねーよ」


「儚い命だったね」


後ろで聞こえる会話は何て憎たらしいんだろう。


「いらっしゃ~い」


そしてナルさんのこの笑顔も何て憎たらしいんだろう。
ボクはこうして犠牲となった。


「さて玲斗、そんなとこでいつまでもいたら俺舞璃ちゃん口説いて来ちゃうよ~」


何て馬鹿みたいな罠。
そんなのにレイが引っかかるわけ……。


「………」


引っかかりやがったーーー!!!
無言でスッと降りてきやがった!!!


「いらっしゃ~い」


あーあ、レイも犠牲になった。


「奏ちゃ~ん、いい加減こっち来ないと、瑠美ちゃんのとこ行っちゃうよ~??」


いや、さすがにレイと同じ手なのに引っかからないでしょ。


「……別にどうでもいいけど、ナルが犯罪しないか心配だから……瑠美ちゃん関係ないからね」


何でこういうのには引っかかっちゃうのカナデ。
実は馬鹿なんじゃない??