海に蛍が落ちれば黄色の光は青い光へと変わる。
そしてウミボタルになる。

そんな絵本を楽しく読んでいたあの時は、まだ自分の名前が好きだった。

小鳥遊蛍(たかなし ほたる)。
これがアタシの名前。
可愛い名前だとよく言われるが、アタシにはこの名前は可愛すぎる。
だからアタシは自分の名前が好きじゃない。




「えっ??バスケ部マネージャー??」


アタシの仲のいい友達のうちの1人である舞璃にバスケ部のマネージャーを一緒にやらないかと誘われたのはつい3日前。
残りの3人はそれぞれに部活を決めたらしく、アタシはどうしようかと迷っていた。
そんな時、アタシと同じくバスケが好きな舞璃に誘われ、放課後マネの見学へ行った。
すぐに入部を決めたアタシ達はさっそく簡単な仕事からさせてもらっていた。


そんなアタシには最近困っていることがある。


「マイスウィートハニー蛍ちゃ~ん!」


「げっ!」


アタシの困っていること。それは、3年生が少ない中、2年生で副キャプテンになった松岡先輩からの絡みだ。
入部初日、この人はアタシの胸へ目を向け。


「へ~、まだ1年生なのにイイ感じじゃん」


と変態丸出しのセリフを言ってきた。
第一印象は、とにかく最悪。
相手は仮にも先輩だと分かっていながら、アタシの悪いクセが出てしまった。


「アンタ初対面にそんなこと言うなんて寒いんだけど」


やってしまった。その時は本当にそう思って、言い終えた後酷く後悔し、今からでも謝ろうと声をかけようとした。
けれど、その必要などまるでなかった。


「イイ!その冷たい態度も歯に着せぬ物言いも!そしてそのツンデレのツンの高さ!」


それからは質問責めだった。
名前は??出身校は??彼氏は??
そんな質問ばかりに苛立ち、また先輩相手に言葉を吐いてしまった。
けれど、またそれも逆効果だった。
そして、なぜか松岡先輩はアタシへ「好きだよ」とか「愛してる」とかふざけて言ってくる。


そして現在に至る。


「蛍ちゃんは本当に可愛いねぇ~、俺と今度遊びに行こうよ~」


「古いナンパのやり方みたいなの止めてください」


「え~っ俺本気なのに!」


何なんだこの人は。
確かに顔がいいことも、長身でスタイルがいいことも認める。
だけど、どうしてここまでウザ絡みが出きるのか。
本当にこの人はいったい何がしたいのか。
と言うよりも、アタシへいちいち絡んでくるのが本当に鬱陶しい。
誰かどうにかしてほしい。