「最初はハル君と気まずかったんだけどね、何でか高校に入ってから陸上部へ遊びに来いって誘われたんだよ……意味わからなかったし拒否したんだけどね」
だけどハル君は言った。
「高跳びやハードル、槍投げや円盤投げをしろ」って。
俺はそれから少しずつ陸上部へ行くようになった。
なぜか陸上部はやたらWelcome姿勢で焦ったけどね。
「………」
「別に大したことじゃないから言わなかっただけ……だから気にしないでね」
俺の話を全て聞いた瑠美ちゃんは黙ったまま。
強がりでも何でもなく、俺はそう声をかけた。
「今は??……短距離……したいと思わないんですか??……」
「……思わないよ」
ハッキリと答える。
その言葉に瑠美ちゃんは強い眼差しを向けてきた。
「嘘ですよ」
「えっ??……」
「長坂先輩、本当は短距離やりたいですよね??……本当は走りたくて仕方ないですよね??本当はっ」
「瑠美ちゃん」
「っ!!?」
笑って言葉を遮り名前を呼ぶ。
驚いたように開かれたその目は少しの怯えを見せた。
「この話はもうお終い、ね??……それより、お菓子持ってきてくれたんだよね??」
「あっ…はい……今日はカスタードクリームのコロネです」
「ありがとう、すごく美味しそう」
これ以上話に触れさせないように話題を変える。
肩の力が抜けたようにお菓子を差し出してくれる瑠美ちゃん。
それにお礼を言って受け取り、別れた。
「ハル君、俺帰るよ」
「……」
「ハル君??」
「あっ、あぁ、それじゃあまた遊びに来い」
少し様子がおかしいハル君に挨拶をして俺はlibertyの部室へ向かった。
「嘘……か……」
夕日が差し込む窓を椅子に座って見ると見えるグラウンド。
ハッキリ見える白線。
何度見てきたんだろう、この景色を……。
「流れ過ぎていく景色も……風で聞こえない声援も……俺には重すぎるよ……」
走りたいか否か、そんなことは考えられない。
俺はそれ以前に、走ることを恐れている。
「母さんや兄さんに今まで気付かずに走ってきただけでも充分最低だ……だからこれから先、父さんに関わること……お菓子作りや陸上は……止める……もう……走らない……」
倒れたあの時、libertyのみんなの前でそう決意した。
もう2度とあの場所に立たない。
もう2度とあの場所を走らない。
「っ!?……はぁー……」
あの時から立ち上がれば起こる立ち眩み。
病院では精神的なものだと診断された。
「陸上しないようにって戒めが俺の精神にあるのかな??」
壁に手をつき、体を支えて自分自身を嘲笑う。
「ははっ……こんなのしなくても走らないよ……」
奥歯がギリッと音を立てる。
目の前の暗闇で視界は全く開かれない。
なのにこれは何だろう??……
暗闇が歪む。
水が揺れるように暗闇が歪んでいる。
「あっ……」
目に溜まっていたのは涙だった。
零れ落ちてはいない。
急いで袖でそれを拭えば、視界はいつも通り。
「今日はもう帰ろうかな……」
中学の頃とは少しずつ変わっていっているlibertyの4人のことを考えながら俺は部室を出た。
「変わっていないのは俺だけか」
静かな廊下に吐き出した言葉。
声が小さすぎて響きもしていない。
「俺はもう走れないんだよ……」
誰に向かって言ったのか……。
自分のことすらわからない。
だけど唯一わかるのは、俺が走っていたという事実は、もう過去の話だということ。
オレンジ色の道を俺は歩くことしかしない。
だけどハル君は言った。
「高跳びやハードル、槍投げや円盤投げをしろ」って。
俺はそれから少しずつ陸上部へ行くようになった。
なぜか陸上部はやたらWelcome姿勢で焦ったけどね。
「………」
「別に大したことじゃないから言わなかっただけ……だから気にしないでね」
俺の話を全て聞いた瑠美ちゃんは黙ったまま。
強がりでも何でもなく、俺はそう声をかけた。
「今は??……短距離……したいと思わないんですか??……」
「……思わないよ」
ハッキリと答える。
その言葉に瑠美ちゃんは強い眼差しを向けてきた。
「嘘ですよ」
「えっ??……」
「長坂先輩、本当は短距離やりたいですよね??……本当は走りたくて仕方ないですよね??本当はっ」
「瑠美ちゃん」
「っ!!?」
笑って言葉を遮り名前を呼ぶ。
驚いたように開かれたその目は少しの怯えを見せた。
「この話はもうお終い、ね??……それより、お菓子持ってきてくれたんだよね??」
「あっ…はい……今日はカスタードクリームのコロネです」
「ありがとう、すごく美味しそう」
これ以上話に触れさせないように話題を変える。
肩の力が抜けたようにお菓子を差し出してくれる瑠美ちゃん。
それにお礼を言って受け取り、別れた。
「ハル君、俺帰るよ」
「……」
「ハル君??」
「あっ、あぁ、それじゃあまた遊びに来い」
少し様子がおかしいハル君に挨拶をして俺はlibertyの部室へ向かった。
「嘘……か……」
夕日が差し込む窓を椅子に座って見ると見えるグラウンド。
ハッキリ見える白線。
何度見てきたんだろう、この景色を……。
「流れ過ぎていく景色も……風で聞こえない声援も……俺には重すぎるよ……」
走りたいか否か、そんなことは考えられない。
俺はそれ以前に、走ることを恐れている。
「母さんや兄さんに今まで気付かずに走ってきただけでも充分最低だ……だからこれから先、父さんに関わること……お菓子作りや陸上は……止める……もう……走らない……」
倒れたあの時、libertyのみんなの前でそう決意した。
もう2度とあの場所に立たない。
もう2度とあの場所を走らない。
「っ!?……はぁー……」
あの時から立ち上がれば起こる立ち眩み。
病院では精神的なものだと診断された。
「陸上しないようにって戒めが俺の精神にあるのかな??」
壁に手をつき、体を支えて自分自身を嘲笑う。
「ははっ……こんなのしなくても走らないよ……」
奥歯がギリッと音を立てる。
目の前の暗闇で視界は全く開かれない。
なのにこれは何だろう??……
暗闇が歪む。
水が揺れるように暗闇が歪んでいる。
「あっ……」
目に溜まっていたのは涙だった。
零れ落ちてはいない。
急いで袖でそれを拭えば、視界はいつも通り。
「今日はもう帰ろうかな……」
中学の頃とは少しずつ変わっていっているlibertyの4人のことを考えながら俺は部室を出た。
「変わっていないのは俺だけか」
静かな廊下に吐き出した言葉。
声が小さすぎて響きもしていない。
「俺はもう走れないんだよ……」
誰に向かって言ったのか……。
自分のことすらわからない。
だけど唯一わかるのは、俺が走っていたという事実は、もう過去の話だということ。
オレンジ色の道を俺は歩くことしかしない。