まずは俺がまだ幼い時……6歳の頃の話をしよう。


俺の家族は4人家族。
父さん、母さん、兄さん、そして俺の4人で霧南とは違う少し遠い場所で住んでいた。
霧南は母さんの実家がある場所で、その当時住んでいたのは父さんの実家がある場所。


「奏君幼稚園楽しかった??」


「奏君お帰り」


幼稚園から帰った俺はいつもケーキ屋にいた。
そこは父さんと母さんの店。

従業員のお兄さんやお姉さんはいつも笑顔で迎え入れてくれ、ショーウインドーにはキラキラ光るケーキ達。
硝子越しに見える作業場に漂う甘い匂い。
俺は本当にその場所が大好きだった。


「奏、お菓子の作り方教えてあげるよ」


「ほんとう!?」


時には父さんは俺にお菓子の作り方を教えてくれ、分かり易いようなレシピまで作ってくれた。
俺はそれが嬉しくて、楽しくて仕方がなかった。


「奏、走るの好きか??なら短距離をするといい」


俺は毎日店の前を行ったり来たり。
父さんはストップウォッチを持っていつもタイムを測ってくれた。
少しでも速くなれば誰より喜んでくれた。
俺もこの時初めて、短距離というものが好きだと実感した。

毎日が本当に楽しかったんだ。


この時までは……。


「おかあさん……」


「ごめんね……留守番よろしくね」


俺が6歳になり半年くらい経った時、俺は1人で留守番することが増えた。
店が忙しくなり、俺が店にいるのは邪魔になる、そう父さんが思ったから。


「奏、僕も行ってくるね」


「うん……」


2つ上の兄さんは小学校に通っていたため、幼稚園のように休みが頻繁にあるわけじゃない。
だから俺は幼い体では広すぎる部屋で毎日何もせず、ただ座って時が経つのを待っていた。


その頃からかな。
少しずつ、父さんと母さんの仲が壊れていき、父さんの性格が一変したのは……。


「もう耐えられないの!!貴方の声を聞くだけでっ私はもう怖くて怖くて仕方ないのっ!!……」


「お前みたいに何も出来ないやつは店にいらないっ!!さっさと出ていけっ!!」


日々激しくなる喧嘩の末、2人は離婚。
俺と兄さんは母さんに引き取られ、霧南へ移り住むことになった。


「かなでくんはなんでひっこしてきたの??」


「かなでくんのおとうさんってどんなひと??」


「あの子の家離婚してこっちへ来たらしいわよ……」


「可哀想ねぇ……あんなに幼いのに……」


「奏君のお母さん若いうちで結婚して上の子産んだらしいから……」


周りから聞こえてくる声。
俺を見る同情の眼差し。
何もかもが嫌で嫌で嫌で仕方がなかった。
だから俺はいつも他人とは境界線を引いて関わらないようにしてきた。
誰も近付けないように……。