「……」


「……」


肝試しの後半の順番である4番目。
アタシ、小鳥遊蛍と長坂先輩がペアで回る。


「(気まずい……)」


始まった時から一言も言葉を発さない長坂先輩。
肝試しの仕掛けが起こっても真顔でスルーしてどんどん進んで行く。

実はアタシは長坂先輩が苦手。
普通に毒吐くし、表情が読めない。
だからペアだと聞いた時から緊張していた。


「ねえ」


「はっはい!!」


「俺さ、本当は瑠美ちゃんに怖がられてるのかな??」


「は??」


緊張しているアタシと打って変わって訳の分からないことを言う目の前の真顔の先輩。


「結構仲良くなったつもりなのに、下向かれること多いし」


少しふてくされたような顔に変わる。
瑠美の話をされ、少し緊張が解けた。


「瑠美は照れ屋で恥ずかしがり屋ですから」


「それは知ってるけど……」


長い前髪で左目を隠したため、左隣を歩いているアタシからは表情がわからない。
だけど、不満そうな声に笑いそうになった。


「そういえばナルに何か言われてたよね」


肝試しが始まる前、松岡先輩はアタシにある事を伝えた。


「奏ちゃんにツンデレ発言したら100倍の嫌みで返されるからね~って言ってました」


「ナル入れ知恵したな」


すみません。
アタシも松岡先輩から言われる前からそう思ってました。
なんて言葉は飲み込み、笑ってごまかした。


「ナル結構蛍ちゃん大事にしてるよね」


「えっ??どこがですか」


あんな鬱陶しいくらい絡んでくる人が、アタシを大事にしてる??
有り得ない、という風に息を吐けば、静かに笑う長坂先輩。


「大事にしてるよ……今までに比べたら」


折り返し地点。
参拝を済ませて再び歩き出したときに呟かれた言葉。
静かな夜にはその声はよく響いてアタシの耳へ届く。


「今まで??……」


「ナルの中学のときの話だよ……蛍ちゃんは聞いてないみたいだね」


風が吹いて長坂先輩の長い前髪をなびかせ目が見える。
アタシとの身長の差はあまりないためによく見える表情。


「ナルの中学の話はさ……聞いたら幻滅するかもね」


幻滅??


「だから近付かない方がいいかもね」


近付かない??


「ねえ蛍ちゃん」


ハッとしていつの間にか俯いていた顔を上げる。


「ナルを」


そこには……。


「助けてあげてよ」


優しく……。
本当に優しく笑う長坂先輩。


「助けてあげてって……でも……近付かない方がいいんじゃないんですか??」


「そうだね、でも……ナルを助けてあげられるの蛍ちゃんくらいじゃないかな」


言ってることが矛盾していてわからない。


「長坂先輩達だってあの人を助けられるんじゃないんですか??」


「俺達は無理だよ……ナルが逆に傷付くから……」


風が止んでまた前髪が目にかかって表情が見えなくなる。


「俺達じゃナルは助けられない」


「………」


ゴール手前、手を振るみんなの姿が見える。
長坂先輩はそこで口を閉ざした。
本当の意味を教えてくれないまま。


「マイスウィートハニー蛍ちゃ~ん!」


飛び付く勢いで走って来る松岡先輩。
長坂先輩はアタシを助けてくれる気はないらしく、そのまま瑠美の方へ歩いて行った。


「蛍ちゃん奏ちゃんにいじめられなかった~??」


ヘラヘラ笑うその笑顔の裏をアタシは知らない。
知りたい……。
アタシしか助けることができないのなら……。


そう思うのに……。
臆病なアタシは知ることが怖いと思ってしまう。