「なぁ、逃げるか」


目の前のこの人は今なんと言いました??


「あの、先輩……」


「行くぞ」


「えっ!!?」


あたしの焦りとは裏腹に、先輩はあたしの手首を掴んで職員室から逃亡。
岡本先輩とあたしの足音に気付いた先生は振り返って名前を叫びながら追いかけて来た。


「先輩っ大丈夫なんですか!?」


「大丈夫大丈夫!俺の他に金髪のやついただろ??あいつがどうにかしてくれるよ!」


まさかの責任転換。


「このままこの廊下突っ切るぞ!」


宣言通り先輩は人通りが少ない廊下を走った。


ガラッ。
後ろの方からドアが開く音が聞こえ、3つの足音も聞こえた。


「先輩!誰か他の人も来ます!」


そう先輩へ伝えると。


「あの足音は多分俺の友達だから大丈夫だよ!あいつ達が何とかしてくれるからこのまま逃げ切るぞ!」


スピードを上げそのまま走り、たどり着いたのは体育館。


「はぁはぁっ」


乱れる息を整えるあたし。
だけど岡本先輩は一切息が乱れていない。それどころか、「楽しかったー!」なんて笑っている。


「大丈夫??えっと、伊吹だっけ??」


「はい、伊吹です。ありがとうございます、大丈夫です」


「心配しなくても、伊吹は俺に誘拐されたから先生も伊吹には怒りはしないよ」


「誘拐って……」


その発言に笑ってしまったあたしは、1つ気になることを聞いた。


「えっ、じゃあ岡本先輩は??先生に怒られちゃうんじゃないんですか??」


あたしだけ何も言われず、岡本先輩だけ怒られるなんて不公平だし、そんなの申し訳なくて絶対嫌だ。


「んな心配そうに見んなよ。俺も大丈夫だから。なんたって毎月これやってるから」


「そんな自慢そうに……」


「ハハッ」


少し前までこの人を怖いと思っていた自分が嘘であったかのように、あたしは今は全く怖がっていない。
それどころか、先輩の話すことは面白くて、あたしはつい笑ってしまっていた。


「伊吹は何で霧南へ来ようと思ったの??」


「家が近かったっていうのと、あとは中学から仲がいい友達がここへ来たからです」


「なるほど。それでスクールライフはエンジョイできそう??」


笑顔でそう聞いてきた先輩。


「そうですね。部活さえ決まればエンジョイできそうです」


「まだ決まってないのか」


「やりたい部活がなかなか見つからなくて…」


そう言ったあたしへ思い付いたように先輩は言った。


「バスケ部のマネは??」