「やっぱり7月も後半になってくると暑いなぁ……」


ついこのあいだ夏休みに入り、バスケ部が練習する体育館も茹だるような暑さになってきた7月下旬。
マネージャーとしての仕事にも慣れ、部員を支えるために暑い中走り回る。
それが今アタシにとって一番楽しいこと。

7月26日の今日がアタシ、小鳥遊蛍の誕生日であったとしても。



「ナイスパス!!」


「ボール回していけよーー!!」


「ゴール決めろ!!」


暑い体育館に響くのはバスケ部の熱い声。
汗をたくさん流しながらコートの上を走る。


「10分休憩だ!!」


3年生の先輩が引退した後キャプテンを継いだ加賀美(かがみ)先輩の声で部員達はコートから出た。
アタシ達マネージャーは1人1人に「お疲れ様です」と声をかけ、タオルとスポーツドリンクを手渡す。


「蛍ちゃ~ん!」


「暑苦しいので近付かないでください」


いつものように間延びしたように名前を呼んで近付いてきた松岡先輩。
アタシの言葉なんて無視でヘラヘラ笑いながら話しかけてくる。


「ねえねえ蛍ちゃん、今日昼から部活休みでしょ??」


「そうですね」


女子の中では随分背の高いアタシでも、見上げなければ目を合わすことができないくらい高い身長の先輩。
そんな先輩が話しかけてくればやたら目立つわけで、バスケ部の部員達は「また松岡がマネージャーに絡んでるよ」と笑いながらいじってくる。
なのにこの人は気にした様子もなく、懲りずに毎回話しかけてくる。


「でさ~……って聞いてる??」


「聞いてなかったです」


「ウソでもそこは聞いてますって言ってよ~」


またヘラヘラ笑う。
そしてまた間延びしながら話す。
あぁ、体育館が暑い……。
体が火照ってくる……。


「午後から蛍ちゃんどうするの??」


「瑠美達に呼ばれているので会いに行って、それから家に帰りますけど」


「じゃあさ、用事終わって帰る前にさ、俺も蛍ちゃんに用事あるから連絡して??」


部活のことかな??
そう思いながら頷いたと同時に練習再開の声が聞こえた。
松岡先輩はヘラヘラとした笑い方ではなく、少し嬉しそうに笑ってコートへ戻って行った。


「ドリンク作っておかないと」


アタシも仕事をしなければと、ハッとなってボトルの入った籠を掴み、少なくなったボトルへドリンクを補充しに部室へ向かった。


「蛍ちゃん、今日誕生日でしょ??おめでとう!」


「えーっそうなの!?おめでとう!!」


部室へ入ると、マネージャーの先輩達に誕生日を祝われ、柄にもなく心がふわふわと嬉しくなった。