「つむおかえり!!」


家へ帰れば、ドアを開けるなり太陽は待ってましたとばかりに飛び付いて来た。


「よーくんただいま!」


「つむデカくなったな!!」


紬の頭をワシャワシャ撫でる太陽とキャッキャッと喜ぶ紬。


「玲斗、迎えありがとう。おかえり、つむちゃん」


奥から歩いて来たのは父親である斎綺(いつき)さん。
俺へ笑いかけてから紬を抱きかかえて目を閉じてそう言った。
その姿は何だか切なくて、俺は黙って玄関に立ち尽くしていることしかできなかった。


紬の好きな料理を4人で机を囲んで食べ、俺は太陽と紬の3人で一緒に風呂へ入った。
こうしている時間は、すごく家族らしくて、俺は無性に嬉しかった。


「ごめんな柚ちゃん……」


紬と太陽を寝かしつけ、喉が乾いた俺は台所へ向かおうと廊下を歩いていた。
すると、柚紀さんの仏壇を置いている部屋から斎綺さんの声が微かに聞こえた。
俺はなぜか咄嗟に息を潜めて足を止め、ドアの前で立ち止まってしまった。


「俺がもっと認めてもらえていたら……子供達に寂しい思いさせずに済むのに……柚ちゃんにちゃんと笑っている3人の姿を毎日見せてあげられるのに……」


その声は切なそうに震えている。


「(ごめん、斎綺さん……)」


俺にもっと力があれば、斎綺さんも悲しませずに済むのに……。
どうして俺はこんなにも非力なんだろう……。
俺はいつもそう思う。
昔のように戻っているのに、どうしてもこの感情だけは消えない。


「(本当に俺は、紬と交わした約束を果たせるのだろうか??
そばにいる家族すら支えられていない“俺”が……)」


いつの間にかドアの前にしゃがみ込んでいた俺には、夏なのに廊下の床がやけに冷たく感じた。


「ありがとうございました」


午後4時。
紬と別れる時間。
車で待ち合わせ場所へやってきた祖父母へ頭を下げる。


「れーくん……」


「紬、またな」


俺の名前を後部座席から呼ぶ紬の頭をポンポンと撫でて別れの言葉を言う。
次に会えるのはいつになるかわからない紬へ……。


「行くわよ」


祖母のその言葉で車にエンジンがかかった。
俺は辛い気持ちを我慢して笑顔で紬に手を振り続けた。


「れーくんっ!!」


遠ざかって行く紬を乗せた車。
最後まで笑って手を振り続けた俺は、それに背を向けて家へ帰る道を歩いた。


「うっ……くっ……紬っ!!……」


伸ばされたあの小さな手を掴むことが許されない非力な俺を許してくれっ……。

叫んだその声に応えてやることができない非力な俺を許してくれっ……。

遠ざかってから、泣いてお前の名前を呼ぶことしかできない非力な俺を許してくれっ……。



いつかちゃんと、守っていける力を付けて、認めさせる。
だからそれまで、待っていてくれ。

決して揺るぎはしないその誓いを、今度こそ果たしてみせるから。


涙を拭い、歩き出すしかない俺が失ったのは、大切な家族だった。