だけど、そんな約束すら叶わなかった……。


「この子は私達が面倒見ます」


突然現れて紬を抱きかかえて連れて帰ろうとしたのは県外に住む母方の祖父母。


「ちょっと待ってくれよ……紬は…俺の妹だっ」


「貴方にこの子を育てて行けるほどの力はないわ、たかが中学生の貴方には無理よ」


「そうかもっ…しれないけどっ……でもっ!!」


「女であるこの子が男ばかりの家で育っても何もいいことはない」


離れたくない。
柚紀さんが命をかけて守った紬と。
俺の大切な妹である紬と。


「紬っ!!」


「しつこいぞ」


冷たく突き放した祖父母の言葉。
紬へ伸ばした俺の手は空を切った。

たまになら返してくれる。
そう約束をし、ピシャリと閉められたドア。
俺の誓った約束は、その音と共に打ち砕かれた。


「俺がっ力がねーからっ……俺は大切なものすら…守れねーのかよっ!!……」


紬に会える日は1年間にほんの僅かしかなかった。
そんな状態にしてしまっているのは俺に力が無いせいだと、そう思って自分が嫌になった。
塞ぎ込み、どうしようもなくなった俺を支えてくれたのは、いつだってlibertyのみんなだった。
おかげで俺は、完全にとは言えないが、前の自分を取り戻せた。


「いつかちゃんと、守っていける力を付けて、認めさせる……だからそれまで、待っていてくれ……」


連れて行かれてから初めて返してくれた時、俺は前より少し大きくなった妹へ新しい誓いをした。




新しい誓いをしてから1年経った今日、久しぶりに紬に会える日。


「明日の午後4時にここへ迎えに来るわ」


「ありがとうございます」


俺の名前を呼んで飛び付いてきた紬を抱き上げる俺に、車の助手席から淡々とそう言った祖母。
祖父母へ頭を下げて礼を言うと、冷めたような視線を俺へ送った後、祖父が車を発進させ、2人は帰って行った。


「紬、大きくなったな」


「れーくんあのね!つむね!じがかけるようになったよ!」


「おっ、そりゃすげーな!」


久しぶりに会った紬は前よりだいぶ大きくなっていた。
もうすぐ3歳になる紬は、茶色い髪の毛以外にも、目や輪郭や鼻筋とかも柚紀さんに似てきていた。


「れーくん、りばぁてぃのおにいちゃんたちにあいたい!」


libertyのみんなは紬が帰って来る時に何度か会ったことがある。
紬もみんなのことが好きらしく、帰って来る度に会いたいとせがむ。


「紬久しぶり」


突然呼び出したにも関わらず、走って1番に来てくれたのは瀬那。


「紬ちゃん大きくなったね」


「つむたん可愛い~」


そしてすぐに、紬の頭を撫でるりょーすけと、手をプニプニ触るナルも来た。


「玲斗ちゃんと紬ちゃんの兄やってるんだね」


ニヤニヤしながら歩いて来たのはカナ。


「せなくん、りょうきくん、なるみくん、かなでくん、こんにちは!」


笑顔で挨拶をする紬に同じように笑顔を返してくれる4人。
紬はちゃんと4人のことをわかっているんだな……。