「おはよ、アカネ」
美少女だ、と思う。
ただし声を聞くまではの話だ。
鈴を転がすような美しい声が紡がれるかと思えば、実際に紡がれたのは柔らかい絹のようなテノール。
美しい声には違いなかったが、その声は紛れもなく青年の持つ声だった。
「…おはよう、舞川くん」
美少女から名指しで挨拶をされ無下に扱うことも出来ず、恐る恐る挨拶を返す。
この作業も、高校2年生になってから新しく組み込まれた儀式の1つだった。
彼とは今年からの付き合いで、彼とは出席番号が前後なので何かと付き合いがある。
彼の苗字が舞川で、私の苗字が槙島だ。
わたしたちの学校は席替えというものがないので、新学期に出席番号によって定められる席はそれなりに重要だった。
一番後ろの席になれたことは非常に幸運なことだと思う。
