「じゃ、後はよろしく!」
そう言って近藤さんは足早に楽屋を出て行った。
(えっ・・・ずっといてくれるんじゃないん!?)
そう思いながらその場に立ち尽くしてしまった私を、浜松さんが腕を引っ張り、椅子に座らせてくれた。
「めっちゃ緊張してるな〜・・・」
「大丈夫やで!」
2人の言葉があまり耳に入ってこない。
「おい!」
急に山野さんに猫だましされ、私は我に返った。
「大丈夫か?」
山野さんに顔を覗き込まれ、思わず赤面する。
「あの、私、何か飲むもの買ってきます!」
そう言って、私は楽屋を出た。
(山野さん、ズルイわ・・・)
私は山野さんが好き・・・
先輩としてじゃなく、異性として・・・
あれは入学式当日。

選択コースの届けを出すために職員室に行くはずだったが、迷ってしまった。
今いる場所もわからず、途方に暮れた私の目の前に男の人が現れた。
「迷ったん?連れて行ったろか?」
顔を上げると、優しい声に負けず劣らず、優しい顔をした男の人が立っていた。
「あの・・・職員室に行きたくて・・・」
「あぁ、選択コースの届けか!俺も最初は迷ってん!
この学校広いもんな〜。わからんわな〜」
そう言いながら、私の手を優しく引いてくれる。
男の人の手を握ったのは何年振りだろうか・・・
3歳の頃両親が離婚し、母の手一つで育てられた私は、男の人の手はおろか、父親と手を繋いだ記憶すらない。
私にとって男の人と言えばおじいちゃんだが、おじいちゃんも3年前に他界。