「生きて…一緒に、笑って、食べて、眠って、時々泣いてもいいから…私の側で、私を支えてください。あなたは気がついていないかも知れないけれど、あなたはもうとっくに自由なのです。あなたの心の傷は、もう、とっくに時効です。もう、過去にとらわれることはない、あなたの思うとおりに生きられるのです」

たった今、リュティアの言葉が、アクスの心の傷を時効にした。アクスは清しい風になでられたように癒えた心で、リュティアの声の持つ魔法の響きを反芻した。

「思うとおりに…?」

「そうです。アクスさん、必ず、必ず私があなたを助けます。だから、生きると―今度からは過去にとらわれず、大切にしたいものを大切にして、思うとおりに生きると、約束してください」

それは、今にも死にゆこうとする者にとって、なんて無茶な約束だろう。それなのに、その言葉には不思議な力があった。生きたいと、アクスは思った。

こんなに強く、生きたいと思ったことはなかった。

―この人のこの涙のために、そしてこの人の笑顔のために…。

生きたい。思うとおりに。

「ああ…約束する…」

吐息のように長く、アクスは約束という言葉を発音した。するとリュティアが涙を拭って、白い花が夜、静かに咲きこぼれるように笑った。