「 “猛き竜(グラン・ヴァイツ)”にも困ったものだ」

ゾディアックの声に、室内へと踏み出しかけたライトの足が止まる。

「せっかく極上の人肉を差し出したというのに、食べないと仰る」

「あの方は血さえ飲まないぞ」

「それでまるで人間のような食事を自分でつくっていらっしゃるのか…こんなことで本当にあの方は魔月王たりうるのだろうか」

ライトはなぜか石像のようにその場から動けない。動いてはいけないと本能が告げていた。

喉の奥でくつくつと笑う声が耳に届く。

―ヴァイオレット?

「大丈夫ですよ、ゆくゆくは我々こそが王になるのだから。〈大いなる戦い〉に勝利さえおさめてもらえれば、猛き竜(グラン・ヴァイツ)など用無し。我ら四人でかかれば一捻りですよ」

「それもそうだな」

――――――。

ライトはゆっくりと、ゆっくりと目を閉じる。

今の言葉が胸に冷たく突き刺さる。突き刺さったところから、凍りつく。

―奴らは俺を殺そうとしている。

わかっていたはずだった。自分に仲間などいない。魔月と仲間になどなれるはずもない。仲間だと、一瞬でも思った自分が愚かだったのだ。

ライトはかっと目を見開いた。

―やれるものならやってみろ。俺は簡単に殺されてやらない!

殺し合い。いいではないか、魔月らしくて。仮にそれで命を落とすとして何が惜しいだろう。自分にはもう、何もない。守りたいものも、失うものも、何も、何も―――