「大丈夫ですかアクスさん。怪我を――」

細い手に肩を支えられ、リュティアの心配そうな声を間近で聞きながら、アクスはまだ少し自分が夢を見ているのではないかと思っていた。思っていたが、夢だとしても先ほどの展開はあってはならないことだったので、思わず声を荒げていた。

「なぜ…なぜ、お前がこんなところにいる…もう少しで四魔月将に、正体を…なんて無茶を…!!」

「大丈夫です。最強の料理人が仲間にいますから」

答えるリュティアの声色が低いことにアクスは気がつかなかった。アクスはうなり、頭を抱えて、苦しみに満ちた声を喉の奥から押し出した。

「もう、斧も包丁も使えない…料理などつくれないんだ…見ろ、この無様な姿を…戦力ならカイで十分だろう。料理人なら、ほかをあたってくれ…」

言いながら、アクスは胸に鈍い痛みを感じていた。

―これでやっとリュティアたちは、ほかに料理人を探すことを思いついてくれるだろう。これでいいのだ。そう言い聞かせながら、胸の痛みを無視しようと努めた。

自分を憐れみながらも「わかりました」と手を離すリュティアの顔を見たくなくて、アクスは顔を背けていた。

その顔に、ぱしんと小気味良い音を立てて何かがはたきつけられた。

自分が平手打ちされたことに気付くのに、時間がかかった。

しかも、その手が白く細い手であることに。

アクスが打たれた頬をおさえて茫然と顔をあげると、大きな二つの瞳と目が合った。

その瞳は目にいっぱい涙をためて、アクスを睨みつけていた。

「いやです!」

赤い唇が放った言葉の意味を、アクスは理解できずに固まった。