―あれから何日経ったのだろう…。

アクスは記憶の糸をたぐったが、すぐにそんなことどうでもよくなった。

ほとんど食べず眠らず時折気を失ってはまた気が付き、歩き通している彼に、日付の感覚などすでにない。

彼は重い足をかろうじて一歩、一歩、踏みしめて、きれいに舗装された一本道を歩いていた。

―ここはどこだろう。それすらもどうでもいい。

実際彼は王都ラヴィアから13日かけてピューアの村のほど近くまでさまよい歩いて来ていたのだが、そんなことは知る由もない。

アクスは踏み出した足がもつれ、その場にばたりと倒れこんだ。

一度倒れこんでしまうと、疲労が一気に押し寄せてきてもう起き上がれなくなった。疲労のせいだけではない、もう立ち上がる気力が彼には残っていなかった。

石床の冷たさを頬に感じながら、アクスは不思議だった。こんな時、思い出すのはファベルジェよりもリュティアの顔なのはなぜだろう…。

出会ってからのことがアクスの脳裏を駆け巡った。

はじめて、アタナディールで彼女に会った時、小鳥一羽にどこまでも尽くす姿に、アクスはファベルジェを思い出して苦しくなった。けれどその姿に…癒されてもいたのだ。

そうか、と今になってアクスは気づいた。

彼女の姿には、声には、魔法のように人の心を癒す不思議な力があった。娘を助けてくれたことに恩を感じたからだけではない、料理人に魅力を感じたからでもない、アクスは深い心の傷を癒したくて、癒されたくて、リュティアと共に行くことを決めたのだ。

旅の間、交わす言葉の端々にその力がこめられていて、アクスはリュティアといると心が軽くなった。リュティアの笑顔を見ると胸があたたかくなった。