出会ってひと月ほど経ったある日、フューリィが何か手土産がほしくて花をさがしていると、ゴミ捨て場に一冊の本をみつけた。

立派な装丁の本だが、一部染みがついているので捨てられてしまったのだろう。

これはセラフィムの退屈しのぎにうってつけかも知れないと思い、持っていったら、セラフィムはありがとうと笑って頭を撫でてくれた。

『本当にもらってしまっていいのかな。フューリィは、もう読んだのかい?』

『いや、あの…僕、字が読めないんだ。書くのもだめ』

孤児でやっとのことで日々を生きているフューリィには、読み書きを習う時間も教師も皆無だった。フューリィが少し恥ずかしくてうつむいていると、セラフィムがぽんとフューリィの肩を叩いた。

『では、私が読み書きを教えよう。フューリィが読めるようになるまでは、私が読み聞かせする、どうかな』

『い、いいの!?』

『まず、この本のタイトルは、“グレイター冒険物語”……』

こうしてセラフィムはフューリィの教師にまでなってくれた。

フューリィは忙しい毎日の中時間をつくってセラフィムのもとへ通い、読み書きを習い、彼の口から語られる冒険物語に耳を傾けた。それは生まれてはじめて体験する充実した時間だった。

フューリィは一冊でも多くの本を読んでもらおうと夢中になって働き、お金をつくっては本を買った。生きることに目的や目標を持てるようになり、毎日が楽しくなった。もうなぜ生まれたのか、なぜ生きているのかと自分に問いかけることもなくなった。

結局フューリィは一年かかって完全に読み書きを覚えたのだが、それからもセラフィムの読み聞かせをねだった。読み聞かせてくれる時のセラフィムの優しい声が大好きだったからだ。