今宵は星も月も見えぬ闇夜。開け放たれた窓掛け(カーテン)の向こうからやさしい光が差し込むこともなく、ランプの灯りが室内を浮かび上がらせる。

金銀の絹やビロードの薄物を天女の衣のごとく何枚も重ねた天蓋付きの寝台には、軽く貴重な羽毛布団の上に横長の羽根枕が置かれている。

寝台のそばのマホガニーの箪笥(チェスト)はつやつやと磨き抜かれ、緻密な彫刻が美しい。

続き部屋には毛皮の敷き詰められた長椅子(ソファ)が置かれ、くつろげる空間になっている。

その広く豪奢な寝室のすべてがこれからは自分のものになるのだとわかっても、ライトには何の喜びも感慨もなかった。

ここは旧トゥルファン王の寝室だ。王城は入口と中庭以外焼かなかったので、そっくりきれいなまま残っているのだ。

薄いランプの灯りの中、ベッドの前の金細工でできた鏡台の前に立ち、ライトは自分の姿を眺めた。

血まみれだ。

マントも銀の鎧も籠手も、返り血で真紅に染まっている。ライトはゆっくりと両手を持ち上げ、視線を落とした。この手が今日、いったい何人を殺したのか…。

そう思うと急に赤が汚らわしいもののように感じられ、ライトは籠手を外し、鎧を脱いで床に投げ捨てた。血の染みは鎧の下に来ていたチュニックにもわずかに移っていたので、チュニックも脱ぎ捨てた。

薄いシャツ一枚になると、急に室内の寒さが身に染みて、ライトは自分を抱くようにしながら豪奢な寝台に腰掛けた。

去来するわずかな罪悪感。

ライトは自分の中にまだそんな感情が残っていることを笑いたくなった。

―魔月の王にそんな感情は必要ない。どうせ人間などじきにいなくなるのだから。