かくして二人の旅は始まった。

それは過酷な旅だった。

二人は路銀を稼ぐため共に働き、野草を集めて食事をつくり、寒空の下身を寄せ合って眠った。

ウルザザードとトゥルファンの国境では戦争に巻き込まれたこともあった。降り注ぐ矢の雨の下を、二人身をかがめて駆け抜けた。

長い夜、二人は様々な話をした。

自分のこと、家族のこと、考えてきたこと―その中で二人は互いの強さを知り、そして弱さと傷を知った。不思議なことに、互いの弱さが力になり、絆になり、互いを強くするのだと知った。

ついにトゥルファンの南端にたどりつき、二人は意気揚揚と船に乗りこんだ。だが船は大嵐に遭い、泣く泣くトゥルファンへと帰らざるを得なかった。

二人は嵐が鎮まるのを待って何度も航海に出ようとしたが、その度に嵐が襲いかかり、二人の行く手を阻んだ。

そんなことを五回も繰り返した時、今まで泣きごとひとつ言わなかったファベルジェが、壊れた船を前に海辺でついに弱音を吐いた。

「俺には……守れないのかな…無理だったのかな…」

その黒い瞳からは本来彼が持つはずのいきいきとした輝きが失われ、悄然とした色だけがあった。そしてその目の端に光るものを見つけた時、アクスは強い感情に突き動かされて荷物の中からあるものを取り出していた。

それはグラス。血を混ぜて作った“絆のグラス”だった。プリラヴィツェに初めて来たとき、記念につくってもらった物だった。アクスはグラスに持っていた酒を注ぐと無我夢中でファベルジェに差し出した。

「その時は、私が守る。お前の守りたい全てを守る。約束する」

ファベルジェの瞳が驚きに見開かれ、アクスとグラスを交互にみつめる。そしてその瞳にみるみるうちに野生の牡鹿のような輝きが戻るのを、アクスは眩しい思いで見ていた。

「――約束だ!」

ファベルジェは一気にグラスの酒を飲みほした。そして自分の懐からも絆のグラスを取り出すと、酒を満たしてアクスに渡した。二人はにやりといつもの笑みを浮かべ、グラスとグラスをぶつけあった。

この時グラスとグラスが響かせた澄んだ音を、二人は生涯忘れることがなかった。

「約束だ」