アクスが洞窟内に侵入し盗賊全員を討ち取るのに、大した時間はかからなかった。ファベルジェはその強さに最初ひたすら圧倒されていたが、しだいにそれは感動に変わった。

ファベルジェは翌日アクスを秘密の湖と菜園に招待し、厨房からくすねてきた酒樽で祝杯をあげた。酒はいつもの倍は美味で、輝く湖と野菜たちも二人をやさしく祝ってくれた。

「騎士団の奴ら、盗賊が全滅したってんで目を丸くしてたぜ。赤毛のおっさん、森を、俺の友達を、守ってくれて…ありがと、な」

「ふん、もうやらん。こんな面倒なこと」

照れ隠しのように杯に目をやると、そこににやついた自分が映りアクスは慌てて顔を引き締める。金で契約する傭兵の暮らしは“感謝”とほど遠く、慣れていないのだ。

「はは、面倒か。面倒ついでにひとつ、俺の頼みを聞いてくれねぇかな」

ファベルジェは急に居住まいを正すと、ひたとアクスを見据えた。

眉がきりっと持ち上がり、その瞳に星のようなきらめきと炎のような激しさが宿ったのがアクスには印象的だった。

「俺に、斧を、教えてくれ! 赤毛のおっさんみたいに強くなりたいんだ。大切なものを守るために!」

普段傲岸じみた態度がなかなかに鼻もちならないファベルジェが、深々と頭まで下げたことに、アクスはおおいにとまどった。

「守る…だと?」

それはアクスに純粋な驚きをもたらす言葉だった。

守る、そんな言葉は今までの彼の人生になかった。

命のやりとりをなんとも思わず、ただ弱肉強食が生命の営みとしてあたりまえだと思ってきた彼だ。

力でもって自分を示しのしあがることしか念頭になかった彼だ。

だが今目の前の少年が真摯に語る“守る”という言葉が、アクスは不思議と不快ではなかった。

この時、守りたい―王子の想いと、強さを求めるアクスの想いが合わさって、新しい思いが二人の間に芽生えようとしていた。それは“守るための強さ”――。

「――しごくぞ」

それがアクスの出した答えだった。

「望むところさ!」

にやりと、二人は歯を見せて笑み交わした。