それにしても婦人の心を掴む台詞を心得ているアクスとは一体何者なのだろう、とカイが半ば憮然としながら思っていると、そのアクスから小声で指示が出された。ええっと声が出そうになるのをすんでのところでこらえる。

―私にそんな恥ずかしいセリフを言えと!?

しかしもはや宝玉の行方はカイの手に委ねられているのだ。えいままよと、カイは口を開いた。

「エリアンヌ様、宝石は確かに見事でしたが、何よりも私を虜にしたのはあなたです。あなたはここにあるどの宝石よりも美しい」

あまりの恥ずかしさに半ば棒読みになってしまったが、エリアンヌにはそれでも効果大だったようだ。うっとりと掌を組み合わせカイを見上げてくる。

「…ですが、この見事な宝玉は、あなたの次に美しいようだ。ぜひ、私のものにしたいものだ」

「まあ、それは困ったわ。それはわたくしのお気に入りなの。でもさすがカイ、お目が高いわ。これはどこにもない、とても珍しい宝石なのよ」

エリアンヌは虹の宝玉のガラスケースに手を置いて、蠱惑(こわく)に満ちたまなざし―と本人は思っているだろう―をカイに注いだ。

「どうしましょうかしら、差し上げてもよろしいのだけれど――何せ宝石などいくらでも余っているのだもの。差し上げると言ったら、あなたは喜んで下さるわね?」

「もちろんです」

「ではそうね、少し奮発してそれを―――」

カイの努力の甲斐あって話がいい方向にまとまりかけた、その時だった。