エリアンヌがあまりにも遠慮なく腕をからめしなだれかかってくるので、カイは閉口気味だった。香水の匂いがきつく、顔をしかめそうになるのをなんとかこらえる。

「これがわたくしのコレクションよ、どう、お気に召して? カイ」

「誠に素晴らしい。感服いたしました」

カイはアクスに言われたとおり、大袈裟に腕を広げて感嘆してみせた。

ここはエリアンヌの宝石部屋。高い天井を持つ優雅なガラスの広間の中に、これでもかというほどガラスケースに入った宝石が飾られている。

カイ達一行は作戦通り屋敷に潜り込むことに成功し、豪華な部屋でお茶をいただいたあと、屋敷の女主人エリアンヌの宝石コレクションとやらを見せてもらえるよう話を誘導した。その中に虹の宝玉がある可能性が高いからだ。

エリアンヌは機嫌よくカイを―べたべた触りながら―案内し、他の面々などまるでその場にいないように振舞った。

一行を取り囲むように後ろにも前にもずらりと並ぶガラスケースの中の宝石は、どれも家一つの値はつきそうな高価なものばかりだった。

カイは今しがた、その中に掌ほどの大きさの丸い宝玉をみつけた。

虹色にきらめくその球の醸し出すえもいわれぬ美しさを目の当たりにした瞬間、聖なる気配のわからぬカイにもピンときた。後ろを振り返ると、フードで顔を隠したリュティアと、パールが同時に頷くのが見えた。

―間違いない。これが虹の宝玉だ。

あとはこれをどうやって手に入れるか、だが…。

カイは気が進まなかったが、やるしかなかった。カイはわざと苦しい表情をつくり、エリアンヌの腕にそっと触れた。

「エリアンヌ様、どうか手をお放しください」

「え……」

「私も一人の男。あなたのような美しいご婦人にそのように近づかれては、この胸の鼓動がうるさく落ち着かないのです」

「…まあ…」

エリアンヌはからめていた腕を放し、完全にぽぅっとなっている。

アクスによって無理やり練習させられた時は何に使うんだこんなセリフ! と思ったものだが、まさか実際に使うことになるとは…。