時刻は羊の刻(とき)。ちょうど都まで本を買いに来たがっていたフューリィもなんとはなしに道連れに、変身したカイ達一行は立派な馬車を借りて六区の中を走っていた。

この街のガラスに次ぐ主産業はワインなのだろう、ここに来るまで一行はいくつものワイン醸造所やワインの描かれた酒場の看板を目にした。見渡す限り続くガラスの建物群とあいまってそれは異国を感じさせる眺めだった。

窓の外を流れるガラスの大邸宅の数々に、フューリィがいちいち感激の声を上げる。馬車は中でもひと際豪壮な邸宅の前で止まった。

邸宅はあちこちで噴きあがる噴水に七色に彩られ、巨大な建築物でありながら驚くほど繊細そうに見えた。館の上半分が巨大な花の形のオブジェとなっているせいかも知れない。なんとも優雅なことに、そこにバルコニーがしつらえてあるのが見える。

「本当にここに、虹の宝玉があるのですか? 確かに、聖なる気配は漂ってきますが…」

「12年も前のことだから、私にもはっきりとは言えない。だが気配を感じるのであれば間違いないだろう。宝玉はこの館の主が所有しているはずだ」

馬車を降りるリュティアに手を貸しながら、アクスが相変わらずの渋面で言う。

「…でも、所有してるものを、どうやっていただいてくるのさ? まさか、盗むの」

パールも身軽に馬車を飛び降りながら、盗むという単語を妙にわくわくした様子で口にする。アクスはそれには答えず、リュティアの外套のフードを念入りなまでに深くおろした。

「くれぐれも、リュティア王女、あなただけは顔を見られないこと。いいな」

「――はい」

「それから、カイ」

最後に馬車を降りたカイに、アクスが念を押す。

「くれぐれも、打ち合わせどおりに」

カイはまだどこか、何かが腑に落ちないのだが、状況に流されるままに頷く。

「………やってみます」

アクスはうむと大きく頷くと、しゃがみこみ、なんと力任せに馬車の車輪を外してしまった。なんにでもすぐ感激するフューリィが何やらはしゃぐ。

「…では、作戦開始だ」