リュティアはそれに気づかず、目を細めながら文面を追う。

「 “人”…“動物”…それに“カタチ”…でしょうか。断片的にしか読めないのですが。この部分が、どうかしたのですか?」

言いながら顔を上げて初めて、セラフィムが驚愕の表情で自分をみつめていることに気づく。リュティアは焦った。何かまずいことを口走っただろうか。

「あなたは…いったい…いや…」

セラフィムの頭の中には、なぜ星麗文字ではない文字が石版に書かれているのか、そしてなぜそれを聖乙女だけが読むことができるのか、その疑問が渦巻いていたのだが、リュティアにはそれがわからない。

やがて頭を振り、セラフィムはもとの柔和な笑顔を浮かべた。

「いずれわかるときが来るでしょう…」

「ねえ、セラフィム様、さっきから言ってる聖具って…セラフィム様がずっと守っていた、あれのことだよね…? あれは…」

リュティアたちは、おずおずとしたフューリィのセリフが過去形であることに妙にひっかかりを覚えた。

セラフィムが軽く頷き、背後から白い袋を持ってくる。

「…これが、聖具“虹の錫杖”です」

セラフィムが袋の中身をテーブルの上に出した。

「!!」

皆呼吸を忘れた。

一行の目に飛び込んできたのは、粉々になった白金の欠片だった。