トゥルファンの地の底の底に、魔月たちの暗く広いねぐらがあることを知る者はいない。人々が笑いさざめく遥か足下で、今日も真紅の牙と角持つ獣たちの、妖しい陰謀がうごめいている。

「なぜ、聖乙女(リル・ファーレ)を殺さなかったのです」

「なぜ、雷竜を殺してしまった?」

「なんで聖具虹の指環を破壊しなかったど」

「あなたの考えがわからない」

ここは魔月たちのねぐらの中の一室。ライトにあてがわれた部屋だ。

凪の夜、海面を照らす青ざめた月のごとく青い輝きを放つ、黒い石でできている。

部屋とはいっても中央にライトが座す玉座があるきりで、壁のかがり火の灯りにうすぼんやりと照らされる様はまるで闇に一艘(いっそう)孤独に浮かぶ船のようだ。

最初は豪奢な家具調度が揃えられていたが、ライトがそれを嫌いすべて捨ててしまった。

背後から四魔月将に口々に責められても、ライトの返事は冷淡だった。

「聖具など破壊せずともあんな小娘を殺すなど、造作もない。急ぐことはない。雷竜は俺の獲物を横取りしようとしたから殺した、それだけだ」

「しかし! 聖乙女(リル・ファーレ)は聖具を身につけることで姿を消してしまったではないですか! どうやってやつを見つけるのです」

「それはお前たちの仕事ではないのか。暇を持て余すよりちょうどいいだろう」

これで話は終わりだとばかりにライトはきっぱりと言い捨てた。

「では聖乙女をみつけてくれば、今度こそ殺してくださるのですね」

「もちろんだ」

「…わかりました。では私たちはこれから、手分けしてヴァルラムからプリラヴィツェ周辺を探してまいります。朗報をお待ちください。それから、邪闇石を用いての魔月の王国づくりについてもどうか、早めにお考えください。我らはずっと、待ち続けてきたのですから」