人々が歓喜の声をあげた。

フューリィが先導しただけで、本当に神殿にたどり着けるのか、半信半疑な者も多かったのだろう。

その建物は淡い色合いの緑柱石(エメラルド)でできた小さな神殿で、赤や黄色、橙に色づく木の葉たちにやさしく抱かれるようにして建っていた。

頂上に円いドームを戴き、それを支える円形の列柱の合間からはエメラルドグリーンのきらきらとした輝きが見え隠れしている。あれは背後に広がる湖の輝きだとフューリィは知っている。

ついに、着いてしまった。

神殿の中に佇む人を見つけて、人々が一瞬ざわめいたが、皆一様に声を失った。無理もないこととフューリィは思う。

神殿の主は月の光のごとき金の髪を湖から渡る風になびかせて、瑠璃色の瞳をわずかに伏せ、この世のものとは思えないほどに美しかった。

「どうした、フューリィ」

どうしてこの人の声はこんなに澄んでいるのだろう、とフューリィは場違いなことを思う。

「…セラフィム様。あの、その…」

フューリィが事情を説明する前に、人々が我に返ってどっと押し寄せてきた。フューリィを突き飛ばし、もみくちゃにして、我先にとセラフィムのもとへ殺到する。

「この、妖怪め!」

「あんたのせいで、村は大変なことになってるんだよ!」

「夫の恨み、ここで晴らしてくれる!」

「待って、みんな待って! セラフィム様は妖怪じゃない! 話を聞いて! うわ」

「こうしてやる!」

人々は手に手に石を持ち、セラフィムに投げつけ始めた。

彼の体のあちこちに石の当たる鈍い音が響き、その白い頬に、赤い線が走る。

セラフィムは黙したまま、その身をかばうこともせずに立ち尽くしている。

フューリィは無我夢中で人の波をかきわけると、セラフィムの前に立ちはだかった。

たちまち身体中を石に打たれたが、フューリィは痛みに歯を食いしばりながらも、その姿勢をやめなかった。

「お願い、話を聞いて! セラフィム様は妖怪なんかじゃない! 今回のことは、セラフィム様のせいじゃないんだ! 絶対違うんだ! 僕が、僕が、証明してみせるから!」