湖の岸辺では、セラフィムを抱えて泳ぎ着いたフューリィが、セラフィムを必死で揺さぶっていた。

「セラフィム様…セラフィム様…?」

しかし返事はなかった。セラフィムの呼吸は止まっていた。

セラフィムを呼ぶフューリィの声がかすれて小さくなり、ついに途絶えるのを、パールは痛ましい気持ちで聞いていた。

パールの位置からはフューリィの背中しか見ることができないが、その小さな背中は震えていた。いや、全身が震えていた。

フューリィは震えながらのろのろとした仕草で鞄を探りはじめた。

パールは悲しみのため麻痺した心でぼんやりと思う。何をするつもりだろうと。何をしてもセラフィムの死は変わらないのにと。

フューリィは鞄から絆のグラスを取り出した。そしてそれで湖の水をすくうと、セラフィムの前に置いた。それはパールの目に悲しいほど透き通って見えた。

渡せないでいるとはにかむように語ったフューリィ。それをやっと今、渡したのだ。

飲みほしてくれる人もいないままに…。

パールの目にはグラスにこめられた想いが染みて、痛くて、痛くてたまらない。

フューリィが、すっくと、立ち上がった。

それは力強い動作だった。その背中はもう震えていなかった。

「フューリィ…?」

思わず呼びかけたのは、深い意図あってのことではなかった。ただパールは何か嫌な予感がしていた。

フューリィが無言で歩き始めた。力強く。