Sweet Rain

時刻が5時半を過ぎたあたりで、弟が急に道の指定をした。

この先に二本に別れる道があるからそれを左に行ってくれとのことだった。

やがてその道が見えてくると僕は左へと左折した。

左に曲がるとそこには雑木林が広がっていた。

道路は一切舗装されていることなく、中央線すらない。

左右を林に囲まれたその道は、高く聳え立つ木々のせいで見渡せる空さえも狭まっていた。

雨と吹き荒れる風により木々がオドロオドロしく悲鳴を上げている。

葉と葉の擦れ合う音が小さく「行ってはいけない」などと何度も木霊しているようでもあった。
「本当にこっちで間違いないんだろうな?」

「大丈夫だよ。ね?」

と言って後部座席の彼女に確認を取ると彼女も頷いていた。

「この先はまともに人家もないぞ、多分」

「それでいいんだよ」と、僕はそこでふとした疑問を弟にぶつけてみた。

「なあ、何で彼女の家がこっちにあるだなんてことまで知ってんだ?」

「え?」

「色々彼女のことを聞いたのはわかるけど、何でこんなに迷うことなく彼女の家の方向がわかるんだよ」

「何でって……そりゃ、訊いて教えてもらったからに決まってんじゃん」

「にしてもだな」

「いいじゃん、そんなどうでもいいことさ」

弟が「ほら、ちゃんと前見て気をつけて運転してくれよ」と注意を促した。

フロンミラー越しに見えた彼女の姿はさっきまでの体勢ではなく再びシートに身体全体を預けて横になっていた。

顔はシートの死角になり見えることはなかったが、コンビニで買ったタオルを顔を隠すようにして覆っていたような気がした。

車は雨の吹きすさぶ中、雑木林の中を真っ直ぐに進んでいく。

狭まった遠くの空から、一筋の夕焼けが垣間見れた。