────時間は、少しばかり現代へと戻っていく。


「大切なこと……? なんだそれ?」

弟の顔はほころんでいた。
まるで兄貴が興味を持ってくれて嬉しいよ、なんてことを今にも言いそうでさえあった。

「それはまだ言えない。とにかく、兄貴には引き受けてほしいんだ。断ってくれなければそれでいいよ」

「はあ~……?」

辺に間延びした声になってしまった。

弟と2人とはいえ、バーの中で発する声にしてはあまりにも間抜けだった。

少し、恥ずかしい。

「ははっ。懐かしいな、それ」

「ん?」

「その、言い方だよ。はあ~……? ってやつ」

「ワケがわからん」

「兄貴、昔から理解できないことがあるといつもそうやって訊き返してたじゃないか。俺は何度も聞いてるよ」

「そうだっけか」

「そうだよ。俺は何度も聞いてる。いや、そうやって訊き返されてるんだ」

そう言って、弟はビールを一口飲み干した。

「そうそう、俺が昔、突然兄貴の家にお邪魔したことがあったろ? あの時もそうだった」

弟の表情がくしゅっとくずれた。

嬉しそうに、愉快そうに屈託なく笑っていた。

「そういえば、そんなこともあったか」

「あの時の兄貴の顔ときたら……今でも忘れられないよ」

クスクス、と爆笑したい気持ちをかみ殺しながら俯き、肩を震わせていた。

「あの時はさすがにまいったぞ。もうあんなこと、やめてくれよ」

「善処する」

「意味わかって言ってんのか?」

「正直わかってないのが本音かな」

「ったく」

相変わらずだな。

僕と同時に弟が同じセリフを吐いていた。