「どうしたの?矢能くん。私を呼んだりして。」

「左藤さんに言いたいことがあって。」

矢能くんは私を澄んだ目でじっと見た。
もしやと思い、告白を期待した。

だが、思っていた用件とちがった。


「左藤さんだよね。鉄の棒と柱にくくってあった紐を取ったの。」

「な、なに言って…。私を疑ってるわけ?!」

「先生が柚香に頼むのを聞いた左藤さんは、紐を取りに行ったんだよね。クラスメートから聞いた。」

「どうして私が取ったって言えるのよ!」

なずなは震えていた。

「みんなは柚香が血を出して倒れているって言ってたのに、左藤さんだけは鉄の棒に当たってって言った。」

なずなはあの騒動の時のことを思い出し、はっとした。

「どうして左藤さんが?」

矢能は少し悲しそうな顔をした。

「だって…とられるのいやだったから。」

「え……」

「柚香ちゃんが矢能くんとるのいやだったの!

だって、わたし…矢能くんのこと好きだったから。」

なずなの目から涙がこぼれた。


「方法を間違えたんじゃない?」

矢能は怒っていなかった。

「柚香に今のことをちゃんと話して。柚香も許してくれる。本当のことを聞けたら。でも……」 

矢能は付け加えた。

「俺は柚香が好きだから。これからも…。左藤さんの気持ちには答えられない。」


なずなは涙を拭くと

「そういうと思った。ありがとう」

そう言った。