陸上部の部室に入る
甲斐くんはあたしを椅子に座らせる
「何があった?」
何が…
首を横に振る
「話すんだ」
あ…
「…りな、りなが」
「うん」
「血が出てて、」
甲斐くんは床に座って
あたしの手をずっと握って
「続けて」
「あ…あたしが、あたしが、走ったから、」
あたしの背中をトントンと叩いて
「あれは事故だ。篠崎のせいじゃない」
「甲斐くん、甲斐くんが、言わないで」
―はっきりと思い出す
あの、3年生のときの
「俺だから言えるんだ」
「―でも」
「篠崎、あれは事故だ」
首を横に振る
「…あたしが走ったから……」
―トントン
「…大丈夫」
―トントン
「…大丈夫だから」

