【短】人妻と、飛び魚と、真夏の果実



それから毎週土日の朝、マリエは仕事の始まる前に「ロミオ」に寄ってくれるようになった。



俺は、銀のトレイを持ち、彼女に白いティーカップを捧げる。


…心に秘めた愛情も一緒に。


あなたは太陽だ。

触れられない禁断の果実だ。


「いい香りだわ」


湯気の立つ、琥珀色の飲み物。

真紅の唇。不埒な想像。

叶わない欲望。


マリエが帰った後、ティーカップに薄っすらと付いた紅い痕跡に、俺は自分の唇を押し付けてみる。


あなたに触れたい……


2人で、熱いシャワーを浴びたあと、水滴が付いた身体のまま、飛び魚になって、大きなベッドの上で跳ねてみたい。



内面は、そんな思いではち切れそうになりながらも、表面上は爽やか高校生を装った。


「部活何してるの?」


「…なんもしてないす」


「へえ、帰宅部なんだ」


「…野球やってたんすけど。かったるくなったんで」


くそ。もっと気の利いた、受け答え出来ねえのか、俺。


「そおなんだ?」

クスクス笑う。

「じゃ、彼女と自由にデート出来るね?」


イタズラっぽい瞳。


「いや!そういうのいないす、マジないす!」


自分でも、みっともない、と思うほどムキになっていた。