【短】人妻と、飛び魚と、真夏の果実


「今まで美味しいアールグレイを淹れてくれてありがとう…」


オデオン座が来週で閉館、マリエが「ロミオ」に来るのも今日が最後ときかされた俺は、頭が真っ白になった。



「マリエさん!」


ショルダーバッグの細いストラップを肩に掛け直したあと、白いスカートを翻して、店の外へ出た彼女を俺は追いかけ、呼び止めた。


「メアド、教えて!」

また、ぶっきらぼうな言い方。


マリエは少し困惑していたけど、自分のバッグからスマホを取り出した。





次の日から、俺は毎晩マリエにメールした。


内容は、他愛ない日常のこと。
彼女も返信をくれた。


古い映画の好きなマリエが、ヒッチコックの『鳥』が面白いよ、とメールで教えてくれた夜は、俺はすぐさまチャリに跨り、TSUTAYAに駆け付けた。



[今度、海を見に行きませんか?]



とんでもない台詞もメールなら言える。


[いつか行きましょうね]


深夜12時過ぎにやっと来たメッセージに俺は頭を捻った。


これはどういう意味だ…?

否定か。肯定か。ん~わからないけど、断られてはいないな。



俺はめげない。