都内の某ビルの一室で、入学式だというのにもかかわらずアキラは雑誌の撮影を行っていた。

「今日は入学式だから、午前中はあけといてって言ったじゃん」
「ごめん、どうしても外せなくて」
「……はぁ」

アキラは撮影の休憩中、水分補給をしながらマネージャーに不満を溢していた。
メイクやヘアーを直しにスタイリストがアキラの周りで作業をするも、本人は気にした様子もなくスマホを弄りながら休憩を続けている。

「それじゃぁ、撮影再開しまーす」

カメラマンのその声で、スタッフが慌ただしく動き出す。アキラも光の集まる、中心へ向かい、定位置に立った。

「それじゃ、軽く笑って……あー、目線はここで」

カメラマンの人がシャッターをきりながら出してくる要望に答えながら、くるくるとポーズを変えていく。
時折、恋人と話してる時みたいに、等も言われたので、それにも笑顔で対応する。
その空間は神聖なもののようで静寂にシャッター音とカメラマンの声が聞こえるだけだ。

「――はい、お疲れ様」
「お疲れ様です」

カメラマンのその声にその場の空気が柔らかく溶けて、また音が戻る。
お疲れ様や、撮影の感想を告げてくるものに返答しながら、アキラは結ばれていた髪をほどいて、前髪をかき揚げた。

「んじゃ、私はかえるか――」
「やっほー、アキラ!」
「……っ」

マネージャーにこれで終わりだと確認を取っている時に、後ろからタックルをかまされた……否、凄い速度で突進され抱きつかれた。

「ちょ、恋!?」
「お疲れ様ー」

人気アイドルの突然の登場に、辺りが一瞬ざわつく。

「アキラも今日はこれで終わりっしょー? 俺もね、今日は歌録りだけで自分の分終わったからさっさと帰ってきちゃった」
「はぁ、また翔くんに怒られるよ」

アキラが言った翔とは、恋のアイドルグループのリーダーやっていて、いつもレッスン等をサボりぎみな恋に世話を焼いている人物のことである。

「しらねー。ねぇ、飯食いにいかない?」
「いいよ、着替えてくる」

恋もおっけー、と言いながらアキラについて楽屋に入った。
恋がいるのを気にしてはいないのか、アキラは撮影用の衣装から私服へ着替える。私服も、撮影用の衣装に負けず劣らずオシャレな訳だが。

「お茶もらっていー?」

恋は聞いたにもかかわらず、返事を聞かずにテーブルに置いてあったペットボトルのお茶に口をつけた。

「飲みかけだったんだけど」
「いいじゃん、いいじゃん。どうせなら直接しちゃう?」
「いらない」
「冷たいなー」

着替え終わり、自分もお茶をのもうと恋の方に振り返ったアキラをソファーに座った恋が手を掴み引っ張った。それによって、アキラは前屈みにつんのめって、掴まれていない方の手で恋が座っているソファーの背もたれに手をついて体を支えるという無理をした体制になってしまった。
そしてその勢いのまま二人の唇はぶつかり合い、小さなリップ音が鳴った。

「ちょ――っ」
「んっ……、不意討ち成功っ」

短いキスを終えて唇同士が離れても、二人の距離は近いままだ。
至近距離でみつめあったまま、恋は悪戯が成功した子どものように笑った。

「んじゃご飯いこ?」
「……うん」