鏡の前で、ふわりと一回転してみる。中学の時のダサいセーラー服とは違う、県内でも可愛いと有名な制服が風に揺れて舞った。

「ふふっ、もう高校生なんだね」

花菜は一人で楽しそうに笑いながら、鏡にうつる自分を見た。
ずっと、夢だった。青葉学園の制服を着ることが。今は社会人の姉も青葉の生徒だったのだが、姉が毎日着ていたこのブレザーを自分も着たかった。
青葉の制服を着た高校生。それが自分の理想で、その夢が叶ったのだからニヤニヤするのもしかたないことだと思った。

「ちょっと、花菜ー? 早くしないと遅れちゃうんじゃない?」

ドア越しの母親の声に、時計を見上げるとそれは予定の時間を指していた。

「うん、わかってるー!」

最後にもう一度、鏡を覗きこんで頬を上げて笑顔を作った。

「じゃぁ、いってきまーす!」
「いってらっしゃい」

黒色のローファーに足を通して、スキップをする勢いで家を出た。しかし、その足はすぐに止まる。

「あ、てっちゃんー。おはよぉ」
「はよーっす」

家の前に居たのは隣に住む幼馴染みの哲也で、家を出る時間が被ったらしい。哲也も同じで今年から青葉の生徒になる。
二人で話ながら歩いていると、少ししたところで後ろから二人を呼ぶ声がした。

「おっはよー、花菜に哲也も」
「紗和ちゃんだー。あっ、髪切ったんだね! 可愛いー」

卒業式に会ったっきりだった紗和は、セミロングだった髪を首筋が見える程にまで短く切っていた。
それを少し恥ずかしそうに首に手をやってから、紗和ははにかんだ。

「花菜も青葉の制服似合ってるよ」
「ほんとにー? 嬉しい」
「ほんと、ほんと。ね、哲也?」
「……おう」

哲也はスマホから顔を上げないで、はっきりしない返答をする。それに花菜はむくれて、拗ねたように頬を膨らました。

「てっちゃんなんて、赤点とって留年しちゃえばいいのに」
「しゃれにならんからやめろ」

苦い顔で、こちらを向いた哲也に花菜は満足そうに顔に笑みを浮かべた。

「スポーツ推薦羨ましいけどね」
「受験は早く終わったけど、さ」
「……これからが心配すぎる」

花菜以外の二人は、スポーツ推薦で青葉に入ったたので、受験はしていないのだ。テストは一応受けるらしいが、殆ど落ちることは無いのだという。
青葉は部活にも力を入れているが、偏差値
も高く倍率も年々増えてきている傾向にある。

「まあ、花菜が受かったのも奇跡だろ」
「うっさいなぁ……」
「まぁまぁ、花菜も頑張ってたもんね」

花菜はその言葉に嬉しそうに紗和の名前を呼びながら抱きついた。

「紗和ちゃんはあたしのオアシスだよぉー」
「はいはい、どーも」
「いちゃつくなっつーの。ほら、もう着くぞ」

くだらないやり取りを続けている内に、青葉の校舎が見えてきた。
青葉は、今年で創立九十年を越える伝統をもった学校なのだが、校舎は十年程前に改築したので新しく、設備も整っている。
制服もその時に新しいデザインになって、今に至る。

「おおー! なんか圧巻」
「受験関係で何回もきたろ」
「今青葉の生徒になって見たのと、前とじゃ心境が違うじゃん! わかってないなぁ」
「へーへー」

哲也はそういうものの、花菜のように立ち止まって校舎を見上げている者は少なくない。

「あ、クラス発表されてるっぽいよ」
「紗和ちゃんと一緒でありますよーに」

三人は人の集団に近づいて見ようとするが、一番背の高い哲也が背伸びをしてやっと見れるくらいだ。

「くっ、そ……見えねぇ」
「てっちゃん頑張って!」
「……俺はAで……、お前ら二人はBー? っぽい」
「やったー! 紗和ちゃん一年宜しくね」
「こっちこそ」

二人と哲也は中学の時もクラスが離れていたので、このクラス分けの結果はあまり気にしていない様だ。

「このまま教室だって」
「じゃー、てっちゃんまたねー」
「おー」

三人はそれぞれの教室に向かう。勿論、花菜と紗和は一緒だ。