ニヤリと笑った俺を見て、るみはなんとも複雑な顔をした。



「……やっぱりナオはにっこりって笑えないんだね」


「はぁ?」



またその話?



「でも…… あたしは好きだな。 ナオのその顔。 なんかゾクっとする」


「はあぁ?」



なに、それ。 褒めてんの?
いや、褒めてないだろ。

満足そうに笑うるみは「こっち来て」と俺たちに背を向けて歩き出した。


その後に続こうとした時、後ろから日向が俺をつついた。



 
振り返ると、心配そうに俺を見上げる日向と目が合う。


「大丈夫なの? ナオが無理にでることないのに……」


そう言うと、日向は足元に視線を落とす。




なんだよ?

俺が出れないかもしれないってなった時は、あからさまに落ち込んでたじゃん。


心配したり、後押ししたり。
ほんと意味わかんね。



「……」



俺は暫く考えて、前を行くるみを見た。
俺たちが話していることには気づいていない。




んー……と。


「なぁ、日向」



その声に視線だけを向ける日向。
俺はそっと耳元に唇を寄せた。



「日向は笑ってろって。
…したら安心出来るから」




そう囁いて、日向の顔を覗き込む。
そして、にやりと笑って見せた。



「…………」





なんとかなる。
ここまで女としてやってきたんだ。

なんとかしてみせるって。



なぜか固まったままの日向から距離をとる。


――?


大丈夫か?
俺の心配するより、自分の心配したほうがいいと思うけど?



「……何があっても知らないからね?」

「おう。 上等だ」



唇と尖らせて、顔を背けた日向は耳まで真っ赤だ。
俺はそれが可笑しくて、思わず笑った。



「何してんのぉー? 早く 早くッ!」



背後からるみの声が届く。
窓の外からは、未だに続いているMSCの賑やかな声が聞こえる。



そして、俺たちはその会場に向かった。