「うっせ」


俺はそれだけ吐き捨てて再び壱矢に背を向けた。


「あっ!咲坂・・・お前最近変な噂たってるの知ってる?」


「・・・・噂?」


“噂”の言葉に食い付いた俺を見て壱矢はにやりと笑った。


「聞きたい?」


壱矢の嬉しそうな顔に俺はゾクゾクっと背筋に冷たい汗が流れた。
嫌な予感がして慌てて体の向きを直す。


「やっぱいい」



そう言った俺の腕を壱矢は掴んで自分の方に引き寄せた。


「待てって。言うから」


「・・・わっ」


強引に引き寄せられた俺はフラついた。
バランスを崩した体は目の前の壱矢の大きな体に顔からぶつかってしまった。


「ってぇ・・・」


抱きとめられるような格好になってしまった事に気付いて、掴まれた壱矢の手を振りほどく。




「咲坂は男に興味がない」


「はぁ?」



俺は赤くなった鼻をさすりながら眉間にシワを寄せて壱矢を見上げた。


「んだよ、それ。当たり前じゃん。男なんて興味ねぇよ」


真剣な顔で俺を見下ろす壱矢に呆れてはぁと溜め息をついた。


「いや、まずいでしょ。他の連中に疑われちゃ・・・お前今、女の子だって事忘れんなよ?」


「・・・・」



壱矢の“女の子”の言葉に俺の眉はピクリと動いた。